▼狐の夢・第一話

事務所の窓から東京タワーは見えないが

(あそこから見たら、アイツはきっと大喜びするだろうな…)

彼はふとそんなことを考えた。

その瞬間、胸に熱い何かが込み上げてくる。
そしてさらに彼の目からは、大粒の涙が溢れ出した。

「え、あれっ!?」

突然の出来事に、彼自身戸惑ってしまう。
溢れ出した涙は、いくら袖でゴシゴシと拭っても留まる気配がない。
無自覚のまま追い詰められた(自ら追い込んでしまった)彼の精神は、バランスが崩れる一歩手前まで来てしまっていたのだ。
崩れてしまう直前に、無意識のうちに身体の自己防衛本能が働いたのかもしれない。

(それを見られたんだよなぁ。 しっかしその後のアッチのほうが… イヤイヤ、ワイはロリやないんや~)

何かを思い出しながら、彼はチラッと目の前の少女を見る。
彼女は目を瞑ったまま考え事でもしているのか、彼の視線に気づいていないようだった。
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