いつもなら感じたことの無い愛刀の重み、技の威力の低下、立ち上がってもなお震えるひざ……

（まさか…………）

たしかに先日横島の店で頂いたハーブティーや食事のおかげで一時的に疲れを忘れていたが、今は麻帆良祭前の一年で一番忙しい時期なのだ。
疲れていない魔法先生など居はしないのが現実であった。

『疲労』

（そんな単純なことを忘れるなんて……）

起き上がった彼女目掛け、取り囲んでいた異形たちが一斉に襲い掛かる。

「ま、今回は運が無かったて諦めや。最後はわしが直接あの世へ送ったるさかい」

リーダー格の大鬼が振るった金棒で殴り飛ばされた彼女が感じたのは、木に激突した背中の痛みでも殴られたわき腹の痛みでもなかった。

背中に感じる暖かいぬくもりと身体全体を包む淡い翡翠色の光に包まれながら、彼女は意識を手放したのであった。