令子は面白そうに笑って飲んでいる


だが美智恵は難しい顔で考え込んでいた


（やっぱり… 横島君は令子の事務所を辞めるかもしれない…）

美智恵は自分の最悪の予想が、当たる可能性が高いと思った

少し前に、横島は仕事を減らしていた


八つ当たりや虐待ばかりの令子に、興味が無くなったのだろう…


魔鈴は優しく家庭的で、横島好みの年上の美人だ


美智恵はそこまで考えて、令子をチラリと見てため息をついた


容姿だけなら、令子でも対抗出来るが…

（総合的には無理ね… かと言って令子の性格じゃあ、素直になれないしね）

このままでは、令子が一人になってしまう…

それに横島と美神家の縁も切れてしまう


美智恵はここまで横島と魔鈴の仲が進展するまで、気がつかなかった自分や令子達に、苦笑いしか出なかった


もっと早く気がつけば、対抗策はたくさんあったのだが…

クリスマスに一夜を共にするほど、仲の進んだ二人を切り離して、再び令子の元に戻るのは難しいと考えていた


「どうしたのママ？ 難しい顔して…」

令子はいつまでも難しい顔で考え込む美智恵に、不思議そうに聞いた


「令子…、横島君を一人の人間として、ちゃんと扱いなさい」

美智恵は真剣な眼差しで令子に話した


可能性は低いかもしれないが、今からでも令子が横島を一人の人間として扱えば、あるいは横島が再び令子を求めるかもしれない

元々横島が一番求めていたのは、令子なのだから…


美智恵はそう考えた

それに横島は元々浮気症な性格なのだ

令子が少し変われば、横島は再び令子に目を向ける可能性がある


美智恵はその方法をとるしかなかった


今すぐ令子に、横島と魔鈴の仲を話せば、令子は怒り狂うだろう

自分の物と思って横島が、他の女と付き合ってるなんて…


それではダメなのだ

今すぐ令子が怒り狂えば、横島は魔鈴の元に完全に行ってしまう

そうすれば、全てが終わってしまう


美智恵は令子に知られずに、令子と横島の関係を進める必要があった


「ママもしつこいわね～ 横島は私の丁稚なの！ どう扱おうが私の自由なのよ！」

令子はしつこい美智恵にため息をついて言い切った


「令子、横島君も高校を卒業すれば社会人なのよ。 それに、あなたは彼に何度も命助けられてるじゃない？ 今回がいいタイミングよ」

美智恵は頑固な令子に苛立ちながらも、優しく話していた


「丁稚が私の役に立つのは当たり前じゃない！ なんで今日はそんなにこだわるの？」

令子は飲み始めてから、聞きたくない話ばかりでイラついていた


「私はあなたの為に言ってるのよ。 横島君がいつまでもあなただけを見てるなんて、限らないのよ？ ルシオラの時のように、彼の良さに気がつく女性が現れたら、今度こそあなたの元から居なくなるわよ？」

美智恵は険しい表情で令子に語っていた


「あんな馬鹿を好きになる女！？　そんな物好きな女居ないわよ～　おキヌちゃんならともかくね。 まあ、あいつが身を粉にして働くってなら、少しは時給上げてもいいけど…」

令子は美智恵の話を笑い飛ばしていた


おキヌが横島を好きなのは知ってはいるが、それは自分の目の届く範囲だから危機感は無いのだ


それに令子が知る横島は、セクハラばかりで情けない横島だ

そんな横島が彼女を作るなど想像できなかった


令子は元々、横島の時給は今よりは上げるつもりだった

だから、それで美智恵が納得いくと思った


「令子…、横島君に能力に見合った給料を払って、きちんと人間として扱いなさい！ これは、親としての命令です！ それが出来ないなら一から教育しなおします！！」

美智恵は令子を睨みつけて話した


「ママ…！？ どうしたのよ。 いきなり…」

令子は突然美智恵が睨みつけてきたので、驚いていた


「どうしたもこうしたもありません！ 人として当然の事です！ それが出来ないなら、あなたの脱税や隠し財産を全て公表して、無一文にしてから徹底的に教育しなおします！」

美智恵は真剣に令子を睨んだまま話していた