番外編・動き出す心

空に響くヘリの音や銃声に犬の泣き声、そこは本当の戦場のようだった

異様な空気にのまれ気味の横島とおキヌに、令子から相手が妖狐だと連絡が来る


(死ぬ訳にはいかない……)

迫り来る妖怪からの死の恐怖を必死に抑える横島に、彼女が迫っていた

ガサッと音がすると、何かが茂みから飛び出して来る


「ギャイン!!!」

それは悲鳴のような泣き声だった

飛び出した彼女の体は一瞬にして結界に捕まって、バチバチと拘束する


「九尾の狐!?」

驚き呟くおキヌだが、彼女の声は横島には届いてなかった



狐が結界に捕われた瞬間に、横島は彼女と目が合っていたのだ


ドクン……

ドクン……


その瞬間、横島は何故かあの日の逆天号を思い出してしまう

時間軸のズレを利用した自分達の攻撃でダメージを受ける逆天号から離れていく彼女の姿と瞳が、何故か九尾の姿と瞳に重なって見えてしまう



一方彼女は、その瞬間自分の最後を悟っていた

罠だとわかっていながら来たこの道以外の逃げ道はない、彼女に選べる道などなかったのだ


(……こいつが私を殺すのね)

結界に捕まり悲鳴をあげる体と心には、目の前の人間が自分を殺す事を理解して恐怖と憎しみが込み上げて来る


「しばらく寝てろ」

彼女が最後に聞いたのは小さく呟いた横島の一言だった

横島自身、何かを考えて行動した訳ではない

無意識ではないが、自然に体が動いたという感じが近いのかもしれない

とっさに文珠で九尾を眠らせた横島は、背負っていたリュックに彼女を隠した

そして突然の横島の行動に驚き戸惑うおキヌを、【忘】の文珠で記憶を消す


それは僅か数秒の出来事だった

やって来る令子や自衛隊の人間に横島は、お札を燃やして九尾を退治した事を告げる


「それじゃ退治する必要なかったんじゃ?」

「まーね。 でも途中でやめたら莫大な違約金とられちゃうし、横島クンがトドメ刺したんだから私は悪くないって事で……」

九尾を退治したと思い込んでいるおキヌは令子に事情を聞き複雑そうな表情を浮かべるが、それは令子も同じだった

令子とて出来れば退治したくなかったが、自分が政府に目を付けられてまで守ってやる事は出来ない


「美神さん、それはちょっと酷いっす」

表向き抗議をする横島だが、内心は冷静に令子を見ていた


令子の妖怪に対する価値観は以前から知っているし、むやみに滅ぼしたいと考える人ではないが仕事となれば事情に関わらず退治するだろう

まあ令子に限らず基本的に妖怪はみんな同じような扱いなのだが……


(なんで助けちまったんだろ)

正直横島としては、そんな令子の行動などどうでもよかった

始めから信じてないし、令子が自分の財産を賭けてまで妖怪を助けるなど有り得ないのだから


(助けるつもりなんてなかったんだけどな)

だが良く知りもしない妖怪を何故助けたのか、横島自身不思議に感じている

極論を言えば先程までの横島も、知らない妖怪などどうでもよかった

横島にとって大切なのは失った彼女だけなのだから……


その後美智恵が来て令子に説教をするなど、いろいろあったが最後まで後味の悪い日だった



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