新しき絆

「そう… 忠夫も気がついてるのね…」

百合子は息子の現状に目を伏せて考えだした…

「私としては、その後は私の店に来て欲しいのですけど…」

魔鈴はそこまで話して言葉を止めた

一応、来る約束はしているが…

それから先は横島が最終的に決断することなのだから…


百合子は静かに魔鈴を見つめていた

「魔鈴さん… 忠夫のことどう思ってるの?」

百合子は魔鈴の気持ちに気がついているが、わざと聞いた

魔鈴の覚悟が知りたかった…

これこそが…

百合子が魔鈴の店に来た最大の理由だった…

魔鈴の答え次第では、忠夫をナルニアに連れて行こうと考えていた

美神家から忠夫を取り返して、新しい土地で一からやり直させようと考えていたのだ…


魔鈴はそんな百合子の考えなど知らずに、顔を赤らめていた…

「私は、横島さんが好きですよ。 もちろん、横島さんの心に居る人も知ってます… でも、私は彼を支えたい…」

魔鈴は少し恥ずかしそうな表情だが、百合子の目を見てしっかりと話した…


百合子は魔鈴を見極めるように静かに見ていた…


そしてふと笑顔になる…

「はっきり言ったわね… あなたの覚悟見せてもらったわ」

百合子は魔鈴が自分の気持ちを自覚して、しっかり忠夫を見ているのを理解した…


「嘘はつけません… この気持ちは本物ですから… 私が横島さんに愛されることは無いでしょう…… それでも… 私は彼が好きですから…」

魔鈴は自分の胸に手を当てて、嬉しそうに微笑んだ


(そこまで忠夫のことを…)

百合子は内心驚いていた

強く、素直で真っ直ぐで純粋な気持ちに…


「魔鈴さん… 忠夫のこと… これからもお願いします。」

百合子は真剣な表情で魔鈴に深く頭を下げた

「いえ… 私が好きでしてることですから…」

魔鈴は少し驚いて百合子の頭を上げるように話した


「あの子は大人になったわ。 もう親がしてやれることは少ないわ…」

百合子はそう話して、魔鈴に先ほどの美神事務所の財務調査書や、違法行為の証拠資料を魔鈴に渡した…

「これは…?」

魔鈴は不思議そうに百合子に聞いた


「忠夫が事務所を辞める時、美神令子さんは妨害や嫌がらせをするでしょう… これをそれに対する切り札にして下さい」

百合子は静かに話した

「いんですか…? 私が預かっても…」

魔鈴はこれが重要な証拠なのを理解して百合子に聞いた

「ええ… 本当は私がこれで、彼女達の罪を全て世間に公表しようと思ってたんだけど… そうすれば、一年前の事件の真相も世間に知れ渡るでしょう… 忠夫もルシオラさんも、それは望まないでしょうからね…」

百合子は寂しさの残る表情だった…


横島もルシオラも、英雄になりたい訳では無いだろう…

真相が世間に知られれば、二人は悲劇の英雄として世間に勝手に扱われる

それは二人の気持ちを踏みにじる結果になるのだから…


「わかりました。 この資料は私が預かります。」

魔鈴はそんな百合子を見て、険しい表情で資料を受け取った…


そんな魔鈴を見つめて、百合子は話し出す…

「いい… 魔鈴さん。 時には心を鬼にしなければダメよ。 忠夫もそうだけど… 優し過ぎるのは美徳じゃないわよ! 美神親子に対抗するには優しさが弱点になるわ!」

百合子は厳しい表情で魔鈴に強く話した

「はい… 肝に銘じておきます」

魔鈴は百合子の言葉を改めて心に刻んだ

百合子はそんな魔鈴の表情に満足したのか、笑みを見せた

「困ったら連絡頂戴ね。 私はあなた達の味方だから…」


魔鈴は百合子の存在を本当に頼もしく感じていた…

そして、横島が事務所を辞める時に備えて、気を引き締めた


一方百合子は、店の開店の邪魔にならないように、早めに帰った

帰り道、百合子は魔鈴を思い出して満足そうな表情をしていた

「予想よりずっといい娘だったわ… でも、少し優しすぎるわね…」

忠夫にはもったいないくらいの人だと百合子は思った

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