番外編・動き出す心

アシュタロス戦から約二ヶ月が過ぎていた

あれから横島は令子や知り合いの前では以前と変わらぬ態度で道化を演じつつ、一人になると抜け殻のような毎日を送っている


あれ以来あれだけ惑わされた令子の色香も癒してくれたおキヌの優しさにも、何も感じなくなっていた

自分ではない自分を自然に演じる横島の心は、どこか他人事のように冷めて自分を見つめている


乱雑に散らかったアパートの部屋で光を失った彼女の霊破片を見つめてるその瞬間だけが、横島にとっては全てだった

答えてくれない彼女のカケラだけが、心を落ち着かせ癒してくれる


そんな今の横島を一番心配しているのは、やはり彼女だろう

横島の幸せを願い全てを賭けた彼女ならば、今の横島を助けたいと必ず願うはずである


そして……

彼女の願いが、止まってしまった横島を再び動かす出会いに導いたのかもしれない




その日、美智恵は険しい表情で車を飛ばしていた


「全く……、あの連中は何を考えてるの!!」

怒りが収まらない美智恵は車を運転しながら怒鳴るが、隣に乗っている西条は八つ当たり気味の怒りに苦笑いを浮かべるしか出来ない


「時期も時期ですからね。 政府が過敏に反応してしまうのも仕方ない気はします」

美智恵の怒りを収めようとする西条の言葉でも、怒りは収まらなかった

そんな二人が急いで向かっているのは那須高原である



さてそもそもの事の始まりは、一週間ほど前に遡る

アシュタロス戦から僅か二ヶ月というこの時期に、偶然発見されたある妖怪の事で日本政府は大慌てになっていた


『那須高原付近に九尾の狐らしき妖怪が目撃された』

そんな報告が那須高原付近の一般人から政府に上がったのは、約一週間前である

政府は至急オカルトGメンとGS協会に真相の確認を求め、オカルトGメンとGS協会の合同調査チームは殺生石を調査して金毛白面九尾の復活を政府に報告していた

この時の報告書では九尾は復活したが、近年の研究などから危険性は低く当分は監視に留めるべきだと報告されている

しかしアシュタロス関連の危機が記憶に新しい政府首脳は、復活した九尾の狐を危険だと判断してしまう

発見された九尾の狐がまだ子供だという報告もあり、今のうちに退治した方が得策だとも判断したようである


この九尾の狐発見の問題は本当に時期が悪かった

人々の記憶にはアシュタロス戦の恐怖が今だに残っており、オカルトに疎い政治家達は魔族や妖怪に対してかなり過敏になっているのだ

無論オカルトGメンやGS協会は安易な妖怪退治に反対をしたが、政府はアシュタロス戦で好き勝手した美智恵に対する不信もあり、オカルトGメンやGS協会の反対を押し切ってしまう

オカルトGメンやGS協会が動かないならば自衛隊を使っても九尾の狐を退治しようと考えたのは、アシュタロス戦から来る人外に対する恐怖の他にも美智恵に対する不信も大きい

その結果政府は、今日自衛隊を使って九尾を退治するとオカルトGメンやGS協会に通告していた

美智恵と西条はそんな政府の行動を止めるべく、那須高原へ急いでいたのである



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