新しき絆

横島は最早、全身傷や打撲でいっぱいだった


「クソッ…」


横島は悔しそうな顔をして、再び立ち上がる


「もう止めよ。 それ以上やれば死ぬぞ! 最早勝てぬのは理解出来よう。 妖狐の為に命を無駄に捨てるのか?」


天狗は横島が再び立ち上がったのに驚いて話した


「無駄じゃねぇ! 薬を持って帰れば助かるんだ! タマモはこれからたくさんの経験をして、幸せになるんだ! そして… 俺も死なない! この命は…、あいつがくれた命なんだから!!!」

横島は天狗を睨みつけた


「だが、気持ちだけでは勝てぬぞ? その若さでそれだけの力は見事だが、まだ修行が足りん。」


天狗は冷静に横島に勝てない事実を語った


横島は天狗を睨んだまま考えていた


(どうすれば勝てるんだ。 修行をして数ヶ月の俺では傷一つつけられない…)

横島は今までの戦いを思い出していた…

だが、横島が自ら戦ったのはアシュタロスだけだ

横島には経験が不足していた


(ルシオラ… やっぱり俺には何も守れないのか? お前を失った後… もう二度大切なモノを失わないと決めたのに… 力を貸してくれ…… 少しでいい… お前の力を……)


横島は再び天狗に向かって、走り出した


作戦も何も無かった

ただ、守りたかった

目の前にある命を……


その時…

横島の左手にある文珠が光っていた


「うおぉぉぉ!!」

横島は全霊力を霊波刀に込めて天狗に向かう



天狗は横島の気迫に驚いていた


何がこの少年をここまで戦わせるかわからないが…

狂気にも見えるほど、恐ろしい程の気迫だった…


天狗はとっさに刀に力を込める


半端でない攻撃がくると予感した



「うおりゃあー!!」


横島の全身全霊の霊波刀を、天狗は受け止めた……


はずだったが…


その瞬間……


横島が揺れて消えた……


そして、目の前に現れた



バキッ!!



横島の霊波刀は天狗の脇腹に当たっていた…


バタッ!!


だが倒れたのは横島だった


天狗はとっさに攻撃を仕掛けて、横島の肩を打ち下ろしていた……


倒れた横島の左手から文珠がこぼれた


文字は【蛍】…


それは横島が込めた文字では無かった


横島が無意識に願った結果だった…


「文珠まで使えたとは…… なんて少年だ……」


天狗は横島と文珠を見て心底驚いていた



二人の戦いをシロはずっと見ていた

自分も一緒に戦いたかったが、横島に言われた事を守るため、我慢していた


そして、シロも驚いていた


横島の今まで見たこと無かった実力に…

前の横島と比べれば、考えられない実力だった…


だが、横島は負けた


シロはもう我慢出来なかった


シロはすぐに天狗の前に立ちはだかった


「横島先生の弟子、犬塚シロ! 今度は拙者が相手でござる!」

シロは霊波刀を出して天狗に挑もうとした…

だが…

「これが薬だ。 持っていくがいい…」

天狗はシロに薬を渡した


「天狗殿… なぜ…」

シロは驚いて天狗を見た


「今回の勝負は引き分けだ。この少年に免じて今回は薬をやろう…」


天狗はシロを見て懐かしそうにした

「いい師匠をもったな… 父上も喜んでいるだろう?」


シロは父の名に驚き答える

「父上はもう…」


「そうか… おしい人物を亡くしたな… 父に負けぬ侍になれよ」


そして天狗は横島を治癒し始めた


しばらくして横島は目を覚ました

横島が目をさましたら天狗はすでに居なかった…


「シ…ロ… 俺は負けたんだな…」

横島はとても悲しそうな瞳をしていた


「先生! 天狗殿は勝負は引き分けだと言って薬を置いていったでござる!」


シロはそんな横島に薬を見せた


「そうか…… よし、急いで戻ろう!」

横島は起き上がり、痛む体を引きずって帰ろうとしたが…


ふと後ろを向き頭を深くさげた


引き分けなどではないのは、横島が一番理解していた


そして薬をくれた天狗に頭を下げたのだ……
17/100ページ
スキ