それを理解しているピートが、何故実現不可能とも言える抽象的な甘い夢にこだわるのかわからない


「不可能ですか……」

一方ピートは美智恵の不可能と言う言葉に違和感を覚える

確かに誰も成しえなかった事を横島は成し遂げたかもしれないが、横島は特殊な能力を使った訳でもないし特別な事を考えた訳でもないのだ


（魔鈴さんの言葉の意味がよくわかりますね）

美智恵の横島は特別だと言う考えに、ピートは先日の魔鈴の言葉を思い出す

みんな自然に横島は人とは違うと思い込んでいるが、横島も普通の人間と変わらない

そんな魔鈴の言葉は、ピートにとっても大きな衝撃だった


「横島さんは普通の人間です。　ただ少し人と違う経験をしただけの……　僕に横島さんと同じ事を出来るとは思いませんが、僕なりに同じ道を目指す事は可能だと思うんです」

「ピート君……」

確固たる決意が見えるピートは、以前の少し頼りない感じから一皮剥けた感じである

人間に対して常に作っていた壁が無くなり始めてる影響からか、本来の歳相応の強さや奥深さが見えていた


「今まで気にかけて頂いた事は、本当に感謝してます。　これからは一人のバンパイアハーフとして、一人一人の人間と接して行きたいと思います」

深く頭を下げるピートに、美智恵はそれ以上言葉をかける事が出来なかった


ピートが選んだのは一人一人の人間と触れ合い、個々にわかり合おうと言う道である

それは果てしなく遠回りになる道かもしれないが、それでもピートはこの道が最善だと信じていた

国や国際社会で吸血鬼が認められても、必ずしも人間との共存が出来るとは限らない

大事なのは一人一人の気持ちだと言う事に、ピートは今更ながらに気付いていたのだ


「わかりました。　ピート君が決意したのたらそれがいいでしょう。　頑張ってね！　私も出来る事は協力するわ」

「ありがとうございます」

結局、美智恵は笑顔でピートを送り出していた

反論したい事は多々あるのだが、今のピートが聞かないのは理解している

今後のオカルトＧメンを考えると、協力してくれる可能性だけは残しておかなくてはならない



「横島君か……」

ピートが帰った後、美智恵は肩を落としてつぶやく

まさか横島が、数百年苦悩するピートに希望を見せるとは思いもしなかった

ピートの話からすると横島は何も知らないようだが、だからこそ美智恵は落胆してしまう


（言葉には出さなかったけど、私は信用されてないのかもしれないわね）

ピートは最後まで低姿勢だったが、美智恵は自分が信頼されてないのは薄々感じていた

その原因は明らかに横島だろう


「横島君、あなたはどんな未来を見てるの？」

この日美智恵は、改めて失った横島の存在の大きさを感じていた



そしてオカルトＧメンを後にしたピートは、晴々とした表情で教会への道を歩いていた

（僕はこれから先もずっと、横島さんと本音で語れる友人でいたい。　それが、僕の個人的な理想なんです）

ピートは最後まで美智恵に言えなかった一言をそっと心でつぶやく

結局最後の決め手になっていたのは、横島や周りの仲間達とまた何の気兼ねも無く会える立場で居たいと言う個人的な理想だった


こうしてピートはオカルトＧメンでは無く、一人のバンパイアハーフとして生きていく事を決意する