卒業式から数日後、ピートはオカルトＧメン入りの返事をするためにオカルトＧメンの事務所を訪れていた


「迷いは晴れたみたいね」

すっきりした様子のピートがやって来た事で、美智恵は迷いが晴れて答えを出して来たのだと確信する


「はい。　この一年いろいろ気にかけて頂き、本当にありがとうございました。　申し訳無いのですが、オカルトＧメン入りは白紙に戻します」

それは気持ちのいい笑顔だった

並の女性なら魅了されそうなほど気持ちのいい笑顔でお礼を言うピートは、そのまま深く頭を下げて謝る


「えっ……」

美智恵は思わず驚きの声を出してしまう

この一年、美智恵は何度もピートの考えを聞き相談にも乗ってきたのだ

ピートのオカルトＧメン入りは、美智恵とピートの両方にプラスになるはずだった

日本にオカルトＧメンを定着させる意味でも、吸血鬼が人間と共存出来る未来のためにもこれが最良の道だと思っている

まあ裏には個人的な損得勘定はもちろんあるが、それでもピートにとっては絶好の機会なのだ

その理由として、バンパイアハーフのピートがオカルトＧメンで働くのは簡単ではない

上司になる人によっては、道具や式神のように使われる危険性もある

特にヨーロッパ系の白人は吸血鬼に対するアレルギーがあるため、美智恵が権力を持つ日本でオカルトＧメン入りして地位を築くのが最も可能性が高いのだ

そこまで説明したにも関わらず、オカルトＧメン入りを辞める理由が美智恵にはわからない


「理由は少し言いにくいのですが、僕は横島さんの友人でいたいんです」

「そんな子供みたいな理由で……」

言いにくそうに理由を話すピートに、美智恵は唖然としていた

吸血鬼と人間のより良い未来を望んでいたピートが、そんな子供みたいな理由で考えを変えたとは信じられない


「子供ですか……、確かにそうかもしれません。　しかし僕は横島さんの未来に希望を見ました」

唖然とする美智恵に、ピートは先日の卒業パーティーの事を話し始める


「人間と妖怪と神族と魔族が、何の目的も無くただ食事を共にして酒を酌み交わしました。　有史以来、同じ事を出来た人が居たでしょうか？　僕はあれこそが理想の未来だと思うんです。　種族は種族ですが、個人は個人。　本当に基本的な事ですが、それが理想だと気付いたんです」

瞳に希望を輝かせながら理想を語るピートは、美智恵が見た事ないほど明るい表情だった

今までは周りの仲間がピートを吸血鬼だと思わず受け入れても、ピート本人はどこかでバンパイアハーフとして壁を作っていたのだ

その心の壁が無くなり始めてる事に、美智恵は驚きが隠せない


「ピート君も言ったように、あれは横島君だから出来る事よ？　他の人には不可能だわ。　それに現実の厳しさはピート君が一番知ってるはずじゃ……」

７００歳のピートが理想と現実の違いを考えない事が、美智恵には不思議で仕方なかった

ルシオラ達三姉妹やタマモの件で、美智恵は嫌と言うほど横島の人外を引き付ける器の大きさは理解している

令子の事務所を辞めた件も、事態の発覚が遅れた原因の一つには影でタマモの存在があるのだから

仮に横島の姿が理想だとしても、横島の独特な感性や器を真似る事は他人には不可能である