エミの変化に内心驚くピート、そんな中で店内にはかおりと魔理がやって来ていた

何やらモメたり驚いたりするかおりと魔理の二人は、自然にみんなの注目を集めていく


そして二人のところに横島が挨拶に行った事で、とうとう二人は大声で横島をののしり始めてしまう


（何を……！？）

二人が横島をののしる姿に、店内の空気は一気に固まる

知らない人間が突然やって来て横島をののしり出したのだから、その場に居る者はどうしていいかわからないようであった


そんな状況でいち早く動いたのは唐巣である

ここ数日いろいろ悩んでいただけに、その行動は早かった


そして唐巣が四人を別室に連れて行った後に、エミに促された魔鈴は横島の真実を語り始める


（横島さん……）

小鳩や愛子の啜り泣く声が響く中で、ピートもまた込み上げて来る涙を抑えるので精一杯だった


（僕はなんて事を）

魔鈴が語るアシュタロス戦後の横島に、ピートは強い衝撃を受ける

毎日学校で顔を合わせていた横島が、まさか周りを騙して苦しんでいたとは信じられない


（横島さんも普通の人なんですね……　そんな当たり前の事に、何故気が付かなかったんだろう）

知らず知らずのうちに横島を特殊な扱いにしていた自分に気付いたピートは、言葉にならない罪悪感に襲われていた

同じように話を聞いている他の者も、一応に表情が固い


【横島だから】

【横島だもの】

そんな言葉でみんな知らず知らずのうちに横島を特殊な扱いにしたり、過大な期待していたりした

魔鈴は決して他人を責めたりはしてないが、多くの者は本当の横島の姿を見ていなかった事実に強い衝撃を受けている


その後魔鈴の話は終わり、みんなそれぞれにいろいろな想いを抱えながらも再びパーティーは盛り上がっていく



「そうか、魔鈴君はそんな事を言っていたか……」

そして時間はあっという間に過ぎていき、教会への帰り道で居ない間の事を教えたピートに唐巣は小さな声でつぶやいていた

雪之丞も簡単に説明していたが、魔鈴の話はもっと複雑で唐巣の心にも強い衝撃を与えている


「先生。　正直今日はいろいろあり過ぎて、まだ頭の整理が出来てません。　でも、何か大事な事が見えた気がします」

新たに知った横島の真実に苦悩する唐巣とは対象的に、ピートは少し迷いが晴れたような表情をしている

もちろん先程の罪悪感は無くなってないし、迷いもまだまだある

だが卒業式から先程のパーティーまでの今日一日で、ピートには何か大事なモノが見えた気がした


「ピート君……」

前を向き進み始めた横島やピートの姿に、唐巣の心は少しだけだが軽くなった気がする


（問題は美神君とおキヌ君か……　彼女達は大丈夫だろうか？）

想像以上に傷付いた横島も心配だったが、同時に令子やおキヌの事も心配だった

横島には仲間や友人などたくさん居るが、不器用過ぎる令子は頼る相手が居ない

それに令子やおキヌの横島への想いを考えると、むしろ置いていかれた二人の方が危うい気がしている


（美智恵君がもう少し、他人を信じて思いやる気持ちを持っていれば……）

二人を支えてやれる人間は美智恵が一番だと思う唐巣だが、肝心の美智恵は人を信じない上に思いやりに欠けているのだ


結局唐巣は横島やピートのこれからに希望が見えた事に安堵しつつ、令子やおキヌの今後に苦慮していた