それはいつもと同じ静かな夕方の事だった


「先生おかえ……？」

教会のに帰宅した唐巣にピートは声をかけたが、途中で止まってしまう

いつも穏やかな笑顔の唐巣が、まるで別人のように苦しみに満ちた表情なのだ


「私は取り返しのつかない過ちを犯してしまったようだ」

一言つぶやくように言葉を発した唐巣は、そのまま静かに神に祈りを捧げる

そのあまりに悲痛とも見える姿に、ピートは心配して声をかけるが反応は無い


それからどれくらい時間が過ぎただろうか

辺りが夜の闇に覆われる頃、唐巣はようやく事情を話し始めた


「今日、横島君がＧＳを辞めたそうだ。　原因は恐らくルシオラ君の件らしい。　美神君とも上手くいってなかったようだ」

目を閉じて肩を落とした様子の唐巣は、ゆっくりと今日の出来事を語っていく



それは昼過ぎに掛かってきた一本の電話から始まった

相手はＧＳ協会幹部で、突然横島がＧＳ免許を返上した為に大慌てで理由を調べているらしい

横島の立場はあくまで令子の弟子であり、美神家の所有物のような立場だった

しかし美神家と横島が以前からモメていた情報を六道家から得ていたＧＳ協会は、事態がどうなるか静観していたのだ

美神家と横島のモメ事がどちらに転んでもまさか横島がＧＳを辞めると思わなかったＧＳ協会は、慌てて詳しい事情を調べ始めたようである


「本当なのですか！？」

令子の師匠であり美神家と関わりの深い唐巣ならば事情を知っているかと思ったＧＳ協会幹部だが、唐巣の驚きとショックを受けてる様子に言葉少なく事情を話していく


『私もよくわからんが、六道家からはこの争いに関わるなとの通達が来ていた。　君ならば何か知っていると思ったのだが……』

困った様子の協会幹部が電話を切ると、唐巣は急いで六道家に向かった

そして六道家当主である冥菜に事情を聞く唐巣だが、冥菜は相変わらずの笑顔のままである


「教えてもいいけど～、余計な事しちゃだめよ～」

笑顔でクギを刺した冥菜は、大まかな横島達と美神家の事を語っていく


「そんな……、何故こうなる前に止めなかったんですか！」

珍しく怒りの表情で声を荒げる唐巣に、冥菜はニコニコと微笑むのみである
　
　
「私が知った時は手遅れだったのよ～　それに、美智恵ちゃんの不始末で私が恨まれるのはイヤよ～」

おっとりした口調や笑顔とは裏腹に、話す内容は冷たい物だった

横島の無念や苦悩を考えれば、第三者である六道家は手出しする理由が全く無い

それどころか下手に手を出して、横島親子に恨まれるのはゴメンだった


「そんな……」

「横島君のアフターケアをしなかったのは、唐巣君にも責任があるでしょう？　令子ちゃんの師匠なんだから～」

納得がいかない様子の唐巣に、冥菜は遠慮無く現実を突き付ける

元々横島の問題は、師匠である令子が精神的ケアーをするのが筋なのだ

いかに六道家とはいえ一々個別の案件に口出ししている訳ではないし、特に横島に関しては令子と美智恵が好き勝手に使ったのだから六道家が助ける理由は全く無い