新しき絆・2

「好きにしなさい」

俯き無表情の令子は静かそう告げると、魔鈴の店を後にしようとする


「美神殿、今までお世話になったでござる。 本当にありがとうでござる」

立ち去ろうとする令子に対して、シロは深く頭を下げて長老から預かった手紙を差し出したが

令子はそれを受け取り何も語ることなく去っていく


(サヨナラ… 横島クン)

令子は最後まで言葉が出ずにチラリと横島を見つめるが…

横島はその視線に気づくことはなく、最後の最後まで噛み合わないまま二人は終わった


魔鈴の店を去ろうとする令子の心には、何故か横島の前世である高島の最後の瞬間が浮かんでいる


『また会おうな…』

(高島殿… ごめんなさい… 私は…)

千年も待ちに待った相手との再び訪れた別れの瞬間に、令子の魂が悲鳴をあげているようであった

しかし、それでも前世のように横島に泣きつくことが出来なかったのは令子の成長の証か…

それとも愚かさか…


それは誰にもわからないが、横島と令子の時を越えた絆はこの時終わりを告げた



(なんとか無事に終わったわね…)

そして去りゆく令子の後ろ姿を見て、タマモはホッとしていた

それだけ令子の想いは強く確かだった


もしも歴史が少し違えば、令子と横島が結ばれたことは確実であったろうとタマモは思う


(終わったよ。 ルシオラ…)

魔鈴に抱きしめられたまま、横島はルシオラに心で語りかける

横島の心にはルシオラと魔鈴、そしてタマモやシロへたくさんの想いで満たされていた


去りゆく令子の後ろ姿に横島は何故かメフィストが重なって見えて、微かに寂しい想いが込み上げてくるが…

横島はそれ以上にルシオラや魔鈴への愛しさで溢れていた


(本当に横島さんが好きだったんですね…)

あの美神令子が横島に一発殴られただけで全ての力を失った

その現実に魔鈴は令子の想いの強さに驚愕している


(ルシオラさん… 私達はようやく第一歩を踏み出しましたよ。 あなたは必ず復活させます。 私と横島さんの人生を賭けても…)

魔鈴は直接は知らないルシオラに心でそっと誓いをたてた



「横島、最後に美神の事務所に行って文珠を回収しないと…」
 
感慨深げな横島達だが、最初に現実に戻ったのはやはりタマモである

後々に問題を残さぬ為にも、横島しか作れない文珠は回収する必要があると思っていたのだ


「そうだな…。 文珠は回収した方がいいな」

横島は魔鈴達を連れて文珠で美神事務所に転移した

そして、令子が事務所に隠してある文珠を横島は全て回収する

令子は厳重に隠していたのだが、元々横島の霊力の固まりな為、横島が念じると横島の手元に戻って来た

これはある程度近くでないと無理なようだが、幸いにして事務所内部に入ってしまえば回収は簡単であった


その間にタマモとシロは、屋根裏部屋に残りの荷物を取りに行き、横島達は美神事務所を後にする


「人工幽霊… 俺、今日で事務所辞めたんだ。 今まで世話になったな。 ありがとう。 もう会えんかもしれんが、元気でな」

「横島さん… タマモさんもシロさんもお元気で… 横島さんの望みが叶うことを私は祈ってます」


人工幽霊は何も聞かずにそう告げて横島達を送り出した

いつもは無表情に近い彼の言葉だが、今日はとても温かく聞こえていた


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