新しき絆・2

それからどれくらいたっただろうか

外が完全に朝を迎えた頃、おキヌは令子に抱きしめられながらようやく落ち着き始めていた


「おキヌちゃん、原因は横島クンね?」

おキヌを落ち着かせるように撫でていた手を止めて、令子は優しく語りかける

その瞬間、おキヌはビクッと震えて再び令子にしがみつくように涙を流し始めた


(これ以上は聞けないわね…)

あまりにひどい精神状態に、令子は自分がうかつに横島の名前を出したことを後悔する

そしてまた無言のまま令子がおキヌを抱きしめている状態が続く


それからしばらくして街に通勤や通学の人が現れる頃、おキヌはようやく眠りについた

令子が前に横島から奪った文珠を使って、少し強引に眠らせたのだ

あまりいい方法では無いが、おキヌが心身共に限界なのは目に見えている

令子はおキヌを心配して、応急処置的に眠らせたのだった


「人工幽霊、おキヌちゃんをお願いね。 私は横島クンを連れてくるわ」

令子は人工幽霊におキヌを頼んで横島のアパートに向かう


車を運転しながら令子はいろいろある疑問を整理していく


「何が何だかサッパリわからないけど… 全ては横島クンが原因みたいね」

今朝の夢やタマモ達が帰って来ない事、それにおキヌのあの状態

全く無関係には思えなかった


「この私と横島クンが結婚してるなんて… しかも私を助ける為に時間移動して過去に来た」

思い出すのは成長して立派になったが、どこか抜けている未来の横島

そして真剣な表情で守りたいものがあると言ったあの時の姿


「まさか、あんな未来があり得るなんてね…」

未来の自分の手紙の内容は今でも信じられない

自分があんな手紙を書くなんて…


「えーい、やめやめ。 あるか、無いか、わからない未来なんて考えても仕方無いわ。 今はおキヌちゃんとタマモとシロの問題をはっきりさせないと」

思考の渦に飲み込まれそうだった令子は強引に頭を切り替える

その時本人は気が付いて無いが、顔が真っ赤であった

その表情がどんな意味を持つのか、本人はもちろん気が付いて無い



横島のアパートに到着した令子は部屋のドアをノックする


ドンドン

ドンドン


「横島クン、起きなさい! 話があるの」

昨日からいろいろあって言いたいことは山ほどあるし、思いっきりシバき倒したい衝動にかられるが、令子は一応抑えて冷静に声をかける


しかし、横島の部屋からは物音一つしない

「横島クン、起きなさい! いい加減にしないと怒るわよ!」

溜まっていた怒りのボルテージが急速に解放されるように、令子の顔にはイライラが浮かんで来る

だが、これだけ声をかけても起きる気配さえない


部屋に上がり込んで無理矢理起こそうかなどと考えている時、隣の部屋の扉が開く


「あら、美神さん。 横島さんなら居ませんけど…」

現れたのは小鳩だった

後ろには、朝からうるさいやっちゃ、などとつぶやく貧もいる


「えっ!? もう居ないの?」

昨日あれだけ遅かったのに、すでに居ないとは予想もしてなかった


「と言うか、最近は夜居ませんよ。 たまに夕方とか帰って来ますけど、すぐに出かけてますし」

不思議そうな令子を見て、首を傾げながら話す小鳩

彼女はてっきり仕事関係だとばかり思っていたのだ


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