新しき絆・2

その頃おキヌは部屋のベットに横たわりながら、徐々に明るくなる窓の外を呆然と眺めていた


「帰って来なかったな…」

今までに一度も無かった無断外泊をしたタマモとシロをふと思い出す

おキヌの顔は疲労で満ちており、目元は泣きはらしたように真っ赤に腫れている


あれから一睡も出来ずにいた彼女は、ずっとあの時の横島と魔鈴の姿が頭から離れない

どんなに忘れようとしても、別のことを考えようとしても無理なのだ


「横島さん…」

何度目かわからないそのつぶやきに、彼女の瞳からはまた涙が溢れ出す


当たり前だった横島の存在とその笑顔

ずっと一番近くで見てきた大切な人

それが気が付いたら消えていた

その現実をおキヌは受け入れることが出来ない



コンコン…

そんな時、部屋をのドアをノックする音がした


「はい、起きてますよ」

慌てて涙を吹いたおキヌが声をかけると、険しい表情の令子が入って来る


「おキヌちゃん、タマモとシロが帰って無いの! 知らない?」

部屋に入るなり、少し慌てたような口調で問いかける令子におキヌは無言でうつむく


「ったく… 朝から嫌な夢見て起きてみれば…… っておキヌちゃんどうしたの!?」

グチりながらおキヌの顔をのぞき込む令子は、あまりに酷く辛そうな表情と泣きはらした目に驚いてしまう


「なんでもありません…」

なんと言葉を出していいかわからないおキヌ

横島と魔鈴の関係…?

それとも横島とタマモとシロの関係…?

何か一つでも口に出して言えば、それが真実になりそうで言葉がでない


「なんでも無い訳無いでしょ!!」

心配そうな令子は、おキヌの肩を掴み訳を問いただす


「わからないんです… 何がどうなっているのか…」

やっとでた言葉におキヌの体は震えていた

そして本人も気付かぬうちに涙が流れている

あまりの事態に令子は困惑を隠せないが、それでもおキヌを強く抱き締めていた

腕の中で震えて声も出さずに涙を流すおキヌを、令子は無言のまま受け止める


「うわぁぁぁぁ…」

壊れそうな心を必死につなぎ止めていたおキヌは、令子の優しさに我慢が出来なくなったのか、思いっきり声をだして泣き始めてしまう


令子はそんなおキヌの姿に何も聞くことが出来ずに、ただおキヌを抱きしめるしか出来ない


(いったい、何が起きてるの?)

そんな中、令子は1人理由を考えていた

嫌な夢に続き、泣き崩れるおキヌ

そして帰って来ないタマモとシロ


突然の事態に、令子は頭をフル回転させて原因を探る

(まさか… 横島クンなの?)


キーワードになる人物は簡単に頭に浮かんだ

夢の中の張本人

おキヌがここまで泣く人物

タマモとシロが最も気を許している人物

そんなのは1人しか居ない


(でも、横島クンに何があるって言うの?)

しかし、令子の考えはここで詰まってしまう

先月には時給も並み以上に上げたし、バイトの日数も最終的には本人の好きようにさせている

結果的ではあるが、令子としては最大限横島に配慮していたつもりである



やはり…

令子は気が付かない

いや、心の奥底では気が付いているのかもしれないが認めない


もう自分達が望んだ横島は居ない真実に……
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