ようやく解放された横島達は少し疲れた表情を見せながら立ち上がる


関係者も一応に疲れたような表情と、ホッとしたような表情をしながら部屋を後にした


「君が横島君か…」

そんな中、関係者の１人が横島の元にやって来た

「思ったよりも若いな…」

白髪混じりの男性は少し意外そうな表情をしている


「はあ…」

横島は相手が誰かも知らない為、なんと答えていいかわからない


「私は渡辺だ。　さっきまで君と交信していた者だよ」

渡辺は少し苦笑いして横島に名前を名乗った


「あっ、お世話になりました」

横島は少し慌てて頭を下げる


「いや、お互い様だよ。　こっちは状況的に君を信じるしか無かった」

渡辺は笑顔になり横島を見つめる


「一言礼が言いたかった。　本当にありがとう」

渡辺は少し頭を下げて、右手を差し出した

横島はそんな渡辺に一瞬戸惑った表情をするが、自然に渡辺と握手を交わす


「あまり気を悪くしないで欲しい。　突然の事故にみんな精一杯だったんだ」

渡辺は少し申し訳無さそうに横島に語る


「気にして無いっすよ。　みんな無事だったんですしね」

横島は苦笑いしていた

直接関係無い渡辺に謝られるのは逆に心苦しく感じてしまう


それに、横島自身は銀一の為にやったのであって、それ以上の意味は無い

結果的に銀一の夢が守れたのだからそれで満足しているのだ


「いつか一杯飲みながら君と話してみたいよ」

渡辺は最後に横島を見てそんな言葉を残し去っていく


（普通の子供にしか見えんがな…）

渡辺は１人歩きながらふと考える

一見普通の高校生にしか見えないが…


（あの時は確かに無線の向こうに明確な心の強さを感じたんだ。　いつか彼の本心が聞きたいものだな…）

長年管制官を勤めてたくさんのパイロットと交信してきた渡辺

彼は無線の声や話し方などで、パイロットの性格や心理状態を見極めることが出来る


あの時、見ず知らずの横島を信じた理由はそこにあった

その前に話したＣＡ比べれば、遥かに横島の方が心の強さを感じれたのだ

渡辺は自分の経験を信じて、横島に飛行機を託していた

この事件、飛行機の中に横島が

そして管制官に渡辺が居なければ、ここまで見事な解決は有り得なかっただろう



そして横島達は、ようやく特別室を後にする


「いや～　凄い１日だったな…」

銀一は精神的に疲れたように笑顔を見せた


「俺も疲れたよ。　こんな疲れた日は久しぶりだ」

苦笑いの横島に銀一は少し驚く

「久しぶりってことは、前にもこんな経験があるんか？」

「……まあな。　ＧＳのバイトは危険ばっかりだよ」

横島は一瞬間が開いてから笑って銀一に答える



そんな横島達の前に１人の女性が現れた


「横島君、ご苦労さま。　災難だったわね。　令子ももうすぐこちらに到着するわ。　先に家まで送りましょうか？」

優しい笑顔でねぎらいの言葉をかけたのは美智恵である


「いや、自分で帰りますよ。　タマモとシロをメシに連れてく約束をしてるんで」

横島も笑顔で美智恵に答える


どこにでもある何気ない普通の会話

しかし、何かが普通では無い

銀一は美智恵と横島の会話に、言いようのない違和感を覚える