新しき絆・2

管制塔が混乱している頃、機内では一時の休憩をとっていた


CAが気を利かせて横島達に飲み物を配ったのだ

「横っち、どうするんや?」

銀一は不安そうな表情で横島を見る


「俺が操縦するよ。 乗客の中に操縦出来る人がいる可能性もあるが、探すのは無理だ。 着陸するまであのままで居てもらう」

横島はパニックになりそうな乗客を起こすのは危険だと判断していた


一方タマモはシロを連れて、乗客と一緒に幻術にかけたCAを元に戻しに行っている

着陸前に乗客を座席に座らせて、安全ベルトを装着させなければならないのだ

この作業は先ほどまで横島に協力していた、1人残ったCAの意見である


「操縦出来るんか?」

銀一は驚いたように横島に問いかけた


「わからん。 ただ俺の霊能力でなんとかする」

横島の言葉を銀一は驚きと戸惑い聞いている


「横っち素人や無かったんか?」

今まで聞く機会が無かったが、今日の横島の姿は素人には見えなかった


「俺は素人だよ。 霊能力があってもな…」

横島は笑顔を作って銀一に答えたが…

銀一には笑顔に見えなく、逆に悲しみのように見えるくらいだ


おキヌはすこし離れた場所で、悲痛な表情で横島と銀一を見つめている

最早おキヌには横島に声をかける気力は無い



「横島、客席は大丈夫よ」

タマモとシロ、それにCAが戻って来た


「サンキュー。 後は管制塔次第なんだが…」

残る不安は管制塔の人達である

未成年の素人に、飛行機を操縦させる判断をするのは無理だろうと思っていた

横島は管制塔の判断次第では、無理矢理自分が操縦する覚悟もしていた


「横島、今のうちに話しておくわね。 知らない人間に文珠を使ったと言ってはダメよ」

タマモは横島を人の居ない場所に引っ張って行き、言い聞かせるように話す


「タマモ…」

横島は少し驚きタマモを見つめる


「私は知らない人間よりあんたが心配なのよ。 文珠は便利過ぎるの。 その能力は一般人には知られない方がいい」

タマモは真剣な表情で横島に語っていた


それはタマモの前世での経験から来る不安である

ほとんど覚えて無い前世だが、強烈な思いやうっすらした記憶なら残っていた


人間は弱い生き物だ

自分より強い生き物や、未知の力に恐怖する

横島の文珠も、知らない人間にしたら変わらないかもしれない


英雄か異端者か…


紙一重でどちらかに決まる

タマモは横島と魔鈴を、そのどちらにもしたく無かった


2人が望むのは名声やお金では無い

タマモはそれを一番知っているのだから…


横島はタマモの様子に思わず笑みがこぼれる

「ああ、わかった。 心配かけてすまんな。 何があっても帰らないとな…、魔鈴さんの元に」

横島はタマモの存在に、ふと肩の力が抜ける


いつもそうだ

守ってるつもりが、いつの間にか守られている


横島は自分の弱さに苦笑いがでてきた


「横島、あんた1人が抱える必要無いのよ? 私もシロも居るんだから」

タマモは、横島にかかっていたプレッシャーが少し抜けたのを見て微笑む


「サンキューな。 早く帰って魔鈴さんのご飯食いたいな…」

横島とタマモはお互い笑って銀一達の元に戻っていく


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