新しき絆・2

周りの人間達はその言葉に黙ってしまう

この状況を一気に好転させる方法など元々無い

後はいかにリスクを減らし、失敗した時に被害を食い止めるかが問題なのだ


元々、悪霊の対策の為に呼ばれた美智恵も、そんな状況に口を挟まない

悪霊が退治された今、彼女に発言権は無いのだ


「CAに操縦させた方がいいのでは無いのかね?」

誰かが代わりの案として声をあげる


「うむ… 確かに危機管理は訓練してるが、操縦に関しては素人だぞ? 問題は技術では無く最後まで冷静にやれるかが問題なのだろ?」

最早この場の者達が求めてるのは操縦技術では無い

こちらの指示を正確にかつ素早く実行する精神力である


「あの横島と言う人間は何者なんだ?」

誰かがそう声をあげると、その場の関係者は美智恵に視線を向ける

先ほどの通信で美智恵が横島を知ってるのをみんな理解していた


「彼は横島忠夫。 無名ですが美神除霊事務所の一員として、先の魔族による核ジャック事件にも参加してます。 あくまで一般論ですが、CAよりは精神的に強いと思われます」

美智恵は最低限の情報を一般論として語った

この状況で美智恵が強く進言するのは得策では無い

幸い娘の令子はあの飛行機に残って無いのだから、わざわざ後で責任を追求される真似はしない


ちなみに、この場に横島忠夫の名前を知る者は居ない

アシュタロス戦の内容は極秘なのである

こんな現場に来るような人間が知るはずもない

横島の顔自体は、逆天号の時テレビで放送された為知ってる者も居るだろうが

幸か不幸か、コックピットの様子は管制塔には見えない


「どうするのだ?」

情報がある程度出揃ったところで、関係者は顔を見合わせる


「私は判断出来ん。 上に指示を仰がなければ…」

国交省の役人は視線を逸らす


「私も無理だ。 会社の意向を聞かねば」

航空会社の人間も困ったように明言をさける


美智恵は日本の危機管理に苛立ちを覚える

こんなことをしている場合では無いのだ


まあ、だからと言って美智恵もわざわざ責任を背負い込む真似はしないが…



「意見が無いなら、私は彼にやらせる」

決めたのはやはり渡辺管制官である

「空港周辺に避難指示を出して下さい。 後、羽田に着陸予定の飛行機は全て他に移して下さい」

渡辺は関係者に指示を出す


「いいのか渡辺君? 失敗したら責任は軽くないぞ?」

周りの人間は複雑な表情で渡辺を見る


「結構です」

渡辺が強く言い切ったのを受けて関係者が動き出す


警察や消防は、空港内部の人間や周辺を避難させる為に連絡を入れて

若い管制官達は、飛行機の振り分けなどを慌ただしく進める


役人達は上司に報告をして万が一の時の対応に入る

それぞれがやっと仕事を進めていた



そしてその情報は百合子の元にも届く


「なんてことなの…」

百合子はまたもや危機的状況に巻き込まれた息子の状況を知り、悔しさを露わにした


「仕事が増えたな…」

大樹はそう呟き、横島のフォローの為にどこかに電話をかける


30/64ページ
スキ