番外編・動き出す心

それから一週間が過ぎていた

あの日久しぶりに本気で怒った令子だが、次の日には元に戻っていた

いろいろ思うところはあったようだが、令子流のしつけはしたし変に日にちを越えてまで引きずらないのは令子ならではと言えるだろう

まあ横島の行動をイチイチ引きずっていたら、きりがないという現状もあるのだろうが……

結局、今の事務所を変えたくないという想いも強いのかもしれない



「えっ!? わかったわ。 すぐ行くから」

平和に戻った事務所に来た一本の電話に、令子の表情が微妙に疲れたように変わる


「横島クン、シロから連絡あって貴方に化ける狐が食い逃げしたそうよ」

やっぱりと言いたげな令子に、横島は苦笑いを浮かべるしか出来ない


「わかったでしょ? 妖怪を助けるのはあんたの勝手だけど、ちゃんと教える事は教えないと意味ないのよ?」

言い聞かせるように語る令子だが、半ば飽きれてる感じもある

横島に妖怪を助けるなというのが無理なのは令子も理解しており、助けるなら助けるなりにしっかりしろといいたいらしい


「美神さん……」

令子と横島を心配そうに交互に見つめるおキヌは、令子がこの件をどうするか心配している

あの後横島が記憶を消したと説明されておキヌはさすがに怒りを感じたが、そんなおキヌをなだめたのは他ならぬ令子だった

二度と記憶を消すような真似はさせないから、今回は許してやってほしいと令子がなだめていた

令子としてはこの件で横島に悪気がないと考えてるし、変に横島とおキヌの関係を拗らせたくなかったのである

そして次の日、横島がおキヌに土下座で何度も謝った事でおキヌは矛を納めていたのだ


「とりあえず行って一度話すしかないわね。 なんとも言えないわ」

結局令子はタマモをどうするのかはっきりさせないまま、横島とおキヌを連れてタマモが現れたという場所に向かって行く


(あいつなんで食い逃げなんて……)

令子の運転の元で後部座席に座る横島だが、何故タマモが食い逃げをしたのかわからない

プライドが高いように見えたし、自分が復讐される事は考えていたが食い逃げをするとは思わなかった


(俺はどうすれば……)

タマモがあの日のように横島や令子に敵意をむき出しにすれば、令子はタマモを退治するかもしれない

横島はその時自分がどうすればいいのか考えるがわからなかった


(潮時かな)

全てを一から考えやり直そうと決めてから一週間、横島は最近密かに美神事務所を辞めるタイミングを探していた

何か目標ややりたい事がある訳ではないが、横島にとってGSのバイトが苦痛なものになっていた事だけは確かである

ルシオラやタマモの件で重くのしかかった命の重圧に、横島自身これ以上GSを続ける意味を見いだせないでいた


(最悪美神さんと戦う事になっても……)

あの日のタマモの姿を思い出す横島は、最悪の場合は令子と戦ってでも生かしてやりたいと考え始める

関係ないただの妖怪だと言えばそれまでだが、何故か横島には退治するという選択肢はない


暇そうに窓から外を見つめながら、横島は内心では密かに覚悟を決めていた


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