新しき絆・2

「近畿君、急がないと最終便に間に合いません! 明日は朝一でドラマの撮りが入ってるんです」

マネージャーは焦った様子で銀一に話しかける


銀一はその声で思考が止まる

彼は先ほどから、不自然な感じを覚えた横島のことを考えていた


「ああ、わかっとる」

銀一はマネージャーに返事をして帰りの準備をする


「私達も帰るわよ。 せっかくのギャラが減っちゃうじゃない!」

令子はそう叫んで、自分はスタスタと歩いていく


「さて、帰るか…」

横島は金欲丸出しの令子を無視して、笑顔でタマモとシロを見る


「うん、お疲れさま」

「先生、お見事でござった!」

タマモは労いの言葉をかけて、シロは横島を褒め称える


横島は大量の除霊道具を持ち、空港に向かっていく


(あんな真剣な横島さん見たのは久しぶりですね…)

おキヌは暗く落ち込んだように歩きながら考え込む

いつ以来だろう

あんな横島を見たのは…


(あれは……、ルシ…オラ…さ…ん…)

おキヌは心臓が止まるかと思うほど驚き、全身から冷や汗を流す


そう…

あんな表情をして真剣に戦う横島を見たのは、あの戦い以来であった

それだけ横島は、普段の令子やおキヌの前では、立ち振る舞いに細心の注意を払っている

除霊現場では怯えて、ふざる

そんな姿をして、誰にもバレないように行動していた


(横島さんが愛して…、横島さんを愛した人…)

おキヌは、ずっと思い出す事の無かったルシオラを思い出す


(横島さんとその世界を守った女性…)

おキヌは最後尾を歩きながら、前を歩く横島達を見つめる


(横島さんは、ルシオラさんのこと…)

おキヌはあの戦い以来、ずっと逃げて来たことを考え始める


あの戦いの後、すぐに元気になり元に戻ってしまった横島

今思えば、横島がルシオラのことをどう考えて、ああ振る舞ったのか誰も知らない

自分も令子も何も聞かず、元に戻った横島を受け入れてしまった


(私は… 横島さんの大切なこと… 何も知らないのね…)

おキヌは、今までいかに自分勝手に横島を見ていたか思い知る

仲間だと…

大切な人だと思っていたはずなのに…

何も知らない


おキヌは失意と後悔の中、無言で歩いていく



そして…

その頃美智恵は、まだ令子の事務所に居た


「これで以上です」

人口幽霊の声に美智恵は答えない

彼女は今日1日ずっと過去の映像を見ていた

飲まず食わずで見たその内容に、美智恵は言葉も出ない


「人口幽霊… あなたは気が付いてるわよね…? 横島君の変化を…」

どれだけ時間がたったかわからないが

長い沈黙を美智恵は破った


「……結果だけを見れば、横島さんは変わったと思います」

人口幽霊は言葉を選びつつ答える


「原因や理由はわかる?」

「いえ、横島さんは事務所内では、特に原因らしきことは発言されてません」

美智恵の無表情の問いかけに、人口幽霊は事実だけを伝える


だが…

人口幽霊には横島が変わった原因に心当たりがある

いつも冷静に事務所内部を見続けて来た人口幽霊は、なんとなく気が付いていた


だが、それは憶測に過ぎない

それに…、人口幽霊も心がある


自分が触れていいことでは無いと密かに心に決めていた


18/64ページ
スキ