番外編・動き出す心

「オーナー行ってしまいましたが……」

それから数分後、シバかれて気絶した横島を前にした令子に人工幽霊が声をかけていた

実はタマモの侵入は人工幽霊により見られていたのだ


「構わないわよ。 あの様子じゃ、たいした事しないわ」

タマモが見ている事は密かに人工幽霊から令子に伝わっており、それを知っていながらわざと横島を怒鳴りシバいていたのである

あの場面は横島を怒鳴りながら、令子がわざと隙を見せていた罠だった

まあ最初は本当に横島を怒鳴っていただけなのだが、タマモが来た事を知った令子がとっさに試したのである

あのまま部屋に侵入して横島や令子に危害を加えたら退治して、何もしなかったら見逃すつもりだったのだ


結果タマモは部屋には入らずに事務所を後にした

立場上退治した事にした妖怪を簡単に見逃す事も出来ないし、かと言って説得みたいな面倒な事はしたくない令子が考えた苦肉の作だった


(あんたに免じて今回だけは見逃してやったわ)

気絶した横島を不機嫌そうに見つめる令子はそのまま部屋を後にする


(全く、妖怪やおキヌちゃんには甘いんだから…… それなら最後まで自分でしっかりしなさいよね)

ぶつぶつと心で愚痴る令子だが、実は横島がおキヌの記憶を消した件に関しては勝手に事情を察していた

あれだけの自衛隊や政府を相手にタマモを助けた事がバレた時に、おキヌに罪が及ばないようにしたんだろうと令子は勝手に推測している

おキヌを危険に巻き込みたくないのは以前から横島と令子が共通している認識だったし、横島の本心に気付かない令子としては他に考えられなかった


まあそれはそれとして理解はするが、文珠を使って記憶を消したやり方には納得してない

文珠は万能過ぎる能力であり、安易に使えば横島自身がいつ危険に晒されてもおかしくないのだから……


(全く……)

終始不機嫌そうな令子だったが、結局横島の意志を尊重してタマモを見逃した辺りに見えない優しさがあるのだろう

令子にとってタマモを見逃す事はリスクはあれど利益がない

しかし助けた横島の心情を本人にわからないように察してしまうのだから、生来のひねくれ者としかいいようがない


一方タマモは訳がわからぬまま美神事務所から逃げ出していた

何故横島が自分を助けたかわからない

あそこまで怒鳴られシバかれてまで、助ける横島がタマモには全くわからないのだ

結局突然の横島の姿に怒りが収まってしまったタマモは、人間から逃げるように一人で山に帰って行く



「いってぇ……」

そして令子に散々怒鳴られシバかれた横島は、アパートに帰って自分で文珠を使い治療をしていた

おキヌは学校に行っており、帰ってくる前に事務所を追い出されていたのである


「しかし情けない結果だな……」

一通り治療が終わると、横島は布団に体を投げ出し今回の件を考え始めた

深く考えた行動ではなかったが、横島としては令子にはバレないだろうと思っていたのだ

それが実際は昨日のうちにバレていたのだから、あまりに情けない結果だった


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