「横島君、自分でしっかり人生選んだんだね…」

微妙な沈黙を破ったのは愛子

「ずっと欲望に流されてばっかりだったのに、大人になったね…」

愛子は優しい笑顔で横島に微笑む


学校で長く生きた妖怪の愛子は、数々の子供達を見て来た

大人と子供の境界線…

人それぞれ個性はあるが、横島のように３年間で別人のようになる人もたくさん見てきていた

少し寂しいが、それが愛子が愛してきた学校なのである


「ああ、俺なんかの為に魂までも犠牲にして愛してくれた人が居たんだ…　そして、全てを理解して、それでも俺を愛してくれた人の為に…」

横島は力強い眼差しと言葉で愛子、ピート、タイガーに語っている


愛子はそんな横島を呆然と見つめている


そして…

何故か１人の女性を思い出す

かつて一度だけ学校に現れてた女性

（あの時の女性なのね…　横島君を変えたのは…）

女の感としか言いようが無い

横島を密かに想ってきた愛子だからこそ、そんな気がした


あの大霊症の直前に一目だけみた女性

あの後見なくなって、誰も口にしない女性


愛子自身も彼女に関して聞けなかった

それは愛子だけは無意識に感じていたからである

あの後、横島の何かが変わったことを


「横島君…、私達ずっと友達よね？」

それは愛子の決意

密かに想ってきた気持ちを、思い出にする為の…


「ああ、そりゃずっと友達だろ？」

横島は愛子のそんな気持ちに気がついてない

故に、笑顔で答えてしまう


「ありがとう…」

愛子は自分に出来る最高の笑顔を浮かべて、その場を後にする


「愛子…？」

横島は愛子に違和感を覚えて見送る


「横島さん、頑張って下さい。　僕はあなたの味方です」

ピートは、一言話して愛子の後を追う



「うっ……う…う……」

愛子は校舎の裏で声を殺して泣いている

自分でもこれほど涙が止まらないとは思わなかった

気持ちを告げるつもりは無かったのに…

一緒に学校生活を送れるだけで幸せだったのに…


涙が止まらない


「気持ちを告げなくていんですか？」

愛子は突然声をかけられ、驚き振り返る

そこにはピートが居た


「…ピート…君…」

愛子は流れる涙を拭いながら、大きく頷く

「私は…、彼が苦しんでる時に…、何もしてあげれなかった…　気持ちを告げる資格無いわ…」

愛子はピートに背を向けて、涙で濡れた顔を隠しながらゆっくり語った


「愛子さん、そんなことは…」

「いいの！　今なら思い出に出来るから！　気持ちを告げたら私……」

心配するピートの言葉を愛子が遮る


それは愛子の本心

これ以上踏み込めば、思い出に出来なくなる

それに横島を苦しめるかもしれない

優しい横島なら、自分の気持ちを知れば、苦しむと理解して…


「あっ…」

愛子は突然ピートに抱きしめられる


「泣いて下さい。　我慢しないで…　横島さんの代わりは出来ませんが、友達ですから…」

ピートは愛子を放っておけなかった

長い時を生きてきたピートは、横島の素晴らしさを良く理解している

吸血鬼も妖怪も魔族さえも、魅了して仲間にしてしまう横島の真の優しさを…


その後

声を殺して涙を流し続ける愛子と、優しく受け止めるピートがしばらくその場に居たが…

そのことを横島が知ることは無かった