番外編・動き出す心

一方幻術をかけられたはずの横島だが、何故かタマモが部屋を後にしたすぐ後に正気に戻っていた

横島本人はタマモが手加減したのかと勝手に考えていたが、実は精神状態が不安定なために精神操作系の幻術は効きにくいのだ


「無茶しなきゃいいけどな…… 生きろよ、タマモ」

静かになった部屋で横島はふと苦笑いを浮かべてしまう

何故助けたのか自分でも今だにわからないが、それでも生きて欲しかった

だが結果的には怒らせてしまったのだから、自分のやり方のマズさにため息が出てしまう


「生きるって難しいな」

この日の出来事で横島は、久しぶりに自分が生きてると実感していた

不遇な運命を背負った少女に恨まれる事で、横島は自分もまた生きてると改めて感じる



そして次の日の昼頃、タマモは美神事務所を見つけて忍び込んでいた

横島のアパートから横島が歩いた匂いを元に見つけたらしい


「すんません、すんません……」

屋敷に染み付いた令子の匂いから、昨日自分を殺そうとした人物だと気付いたタマモは復讐しようと部屋を覗くが、そこで見たモノは令子に土下座で謝る横島の姿だった


「あんた自分が何をしたかわかってるの!!」

機嫌が悪い令子は、今にも横島をシバき倒すほどの殺気で睨みつけている

対する横島は全身に冷や汗を流してただ謝るばかりで、その姿はあまりに情けなく見えていた


「助けたのは仕方ないとしても、おキヌちゃんまで騙したのはどういうつもり!!」

いつもに増して怒り心頭の令子だが、実は横島がタマモを助けたのを半ば見抜いていたのだ

状況的に横島とおキヌが子狐を退治出来ないだろうと気付いていた令子は昨夜のうちにおキヌに事情を聞いたが、肝心のおキヌは何故か退治される瞬間があやふやで思い出せない

何か怪しいと判断した令子は、文珠でおキヌの記憶を蘇らせたのである

本来なら勝手な行動をした横島を普通にシバいて終わるはずだったが、横島がおキヌの記憶を消した事に令子の怒りは収まらなかった


「しかもロクに話もしないうちに逃げられたって、それで済むと思ってるの!! 今度九尾が捕まったら、私もあんたもタダじゃ済まないのよ!」

「すんません。 俺が全部悪いっすから責任とります」

「あんた一人で責任取れるほど、甘くないのよ!!」

今回の件は令子から見て横島のした事はあまりにも中途半端だった

助けたなら助けたなりに人間に敵対しないように説得などしなければならないが、横島は助けて家に連れ帰ったら逃げられてしまったと言うのだ

殺されかけた九尾が人間を恨むのは当然だろうし、生きてる事がバレたら違約金だけでなく令子の信用や横島の今後に深く関わるだろう

令子は名声や過去の功績もあるし裏技で乗り切れるだろうが、横島は間違いなく今後GSとして活動出来なくなる

それどころか政府の判断次第では免許剥奪され逮捕される事もありえなくはない


文珠を使っておキヌの記憶を消した件ですら怒りが収まらないのに、九尾を中途半端に逃がした横島に令子は怒りが収まらないままである



「あいつ……」

一方的に怒鳴られてる横島の姿に、タマモは複雑な感情を抱えてしまう

少なくとも偽善や自分の利益の為に助けたようには見えない


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