その一
それから時は過ぎて外は夕暮れになっていた
縁側に座ったエミは、見渡す限りの山々と沈みゆく夕日を静かに見つめている
風の音しか聞こえないような静かなこの場所に、まるで時が止まったかのような錯覚すら感じてしまう
(こんな場所で生きてきたなんてね)
出会った頃の横島を思い出すと、エミは言いようがない複雑な気持ちになる
山々の静か過ぎる環境が永遠に続くと思うと、気がおかしくなりそうだとすら思ってしまう
「いや~、人間のお客なんて何年ぶりっすかね~ 今、夕飯作りますね」
そんなエミの気持ちとは裏腹に、横島は昔に戻ったような感じで料理を始めていた
かまどで火を起こしてご飯を炊き、囲炉裏では鍋のような物を煮込み始める
電化製品など一切無い家では当然のようで、横島は手慣れた手つきで料理をしていく
「米はあるのね」
「米や調味料とかの最低限の必需品は、シロとタマモが持って来てくれてるんすよ。 後は小竜姫様とかも時々食料とか持って来てくれますしね」
エミは独り言のようにつぶやいただけなのだが、静かな家では聞こえてしまうようである
横島はあまり詳しく話さないが、最低限の支援をしてる者達は居るようであった
それから横島とエミは再び会話をする事もなく時が過ぎてゆき
ご飯が炊ける匂いがしてきた頃、ぽつりぽつりと雨が落ちてくる
「本当に降って来たわね」
半信半疑だったエミは若干驚きながら空を見上げた
山の天気は変わりやすいとは言うが、ついさっきまでは雨が降る気配は無かったのである
「連絡しなくて大丈夫っすか? 旦那さん心配してるんじゃ……」
雨戸を閉めに来た横島は、エミが帰るのが遅れる連絡をどうするか悩んでいた
電話どころか電化製品も全く無い家では、街との連絡手段などないのだ
「私を馬鹿にしてるワケ? 私はまだ独身よ!!」
困ったように心配する横島に、エミは不愉快そうに答えた
年齢の割には若く美しいエミだが、さすがに結婚などに関しては敏感なようだ
「えっ……、そうなんすか!? エミさんなら美人だし相手がいくらでも居たでしょうに……」
「別にモテなかったなんて言ってないワケ。 ただ、結婚したい相手はいなかったのよ」
美人なエミがいまだに独身な事に横島は不思議そうだが、エミは結婚に関しては複雑な気持ちがあるようである
「そうなんすか…… 難しいっすね」
複雑そうなエミの表情に、触れてはいけない話題に触れたと思った横島は申し訳なさそうに言葉を濁した
「おたくも似たようなもんでしょ? あんだけ女好きだったのに」
ニヤリと意味深な笑顔を浮かべたエミは、横島をからかうような視線を送る
「いや……、まあ……」
少し困ったように笑った横島は、再び夕食の支度に戻っていく
(お互い時間が過ぎても変われない事が多いわね)
少し寂しそうな横島の後ろ姿にエミは、共感する部分を感じていた
内容は違うが、過去がお互いの今を縛る現状は変わらない
エミは横島に比べればマシかもしれないが、それでも共感を感じずにはいられなかった
縁側に座ったエミは、見渡す限りの山々と沈みゆく夕日を静かに見つめている
風の音しか聞こえないような静かなこの場所に、まるで時が止まったかのような錯覚すら感じてしまう
(こんな場所で生きてきたなんてね)
出会った頃の横島を思い出すと、エミは言いようがない複雑な気持ちになる
山々の静か過ぎる環境が永遠に続くと思うと、気がおかしくなりそうだとすら思ってしまう
「いや~、人間のお客なんて何年ぶりっすかね~ 今、夕飯作りますね」
そんなエミの気持ちとは裏腹に、横島は昔に戻ったような感じで料理を始めていた
かまどで火を起こしてご飯を炊き、囲炉裏では鍋のような物を煮込み始める
電化製品など一切無い家では当然のようで、横島は手慣れた手つきで料理をしていく
「米はあるのね」
「米や調味料とかの最低限の必需品は、シロとタマモが持って来てくれてるんすよ。 後は小竜姫様とかも時々食料とか持って来てくれますしね」
エミは独り言のようにつぶやいただけなのだが、静かな家では聞こえてしまうようである
横島はあまり詳しく話さないが、最低限の支援をしてる者達は居るようであった
それから横島とエミは再び会話をする事もなく時が過ぎてゆき
ご飯が炊ける匂いがしてきた頃、ぽつりぽつりと雨が落ちてくる
「本当に降って来たわね」
半信半疑だったエミは若干驚きながら空を見上げた
山の天気は変わりやすいとは言うが、ついさっきまでは雨が降る気配は無かったのである
「連絡しなくて大丈夫っすか? 旦那さん心配してるんじゃ……」
雨戸を閉めに来た横島は、エミが帰るのが遅れる連絡をどうするか悩んでいた
電話どころか電化製品も全く無い家では、街との連絡手段などないのだ
「私を馬鹿にしてるワケ? 私はまだ独身よ!!」
困ったように心配する横島に、エミは不愉快そうに答えた
年齢の割には若く美しいエミだが、さすがに結婚などに関しては敏感なようだ
「えっ……、そうなんすか!? エミさんなら美人だし相手がいくらでも居たでしょうに……」
「別にモテなかったなんて言ってないワケ。 ただ、結婚したい相手はいなかったのよ」
美人なエミがいまだに独身な事に横島は不思議そうだが、エミは結婚に関しては複雑な気持ちがあるようである
「そうなんすか…… 難しいっすね」
複雑そうなエミの表情に、触れてはいけない話題に触れたと思った横島は申し訳なさそうに言葉を濁した
「おたくも似たようなもんでしょ? あんだけ女好きだったのに」
ニヤリと意味深な笑顔を浮かべたエミは、横島をからかうような視線を送る
「いや……、まあ……」
少し困ったように笑った横島は、再び夕食の支度に戻っていく
(お互い時間が過ぎても変われない事が多いわね)
少し寂しそうな横島の後ろ姿にエミは、共感する部分を感じていた
内容は違うが、過去がお互いの今を縛る現状は変わらない
エミは横島に比べればマシかもしれないが、それでも共感を感じずにはいられなかった