その一

「おたくがこんな場所に住んでたなんてね」

昔なじみの横島を見つけて少しホッとしたエミは警戒を解いて、周囲を見渡す

そこは昔話に出て来るような古びた民家と、僅かな畑しかない場所である


「人に見つからない場所って案外無いんすよ。 数年おきに場所を変えるにはこのくらいの場所が理想なんです」

「おたくも大変ね」

民家に入ったエミは囲炉裏の前に座り横島を見るが、その表情は昔の無邪気な表情ではない


「あの時はみんな探したのよ? あんたが突然令子の事務所辞めて姿を消すから……」

お茶を飲んで一息ついたエミは、ふと横島が東京から消えた時を思い出していた


「すいません」

言葉少なく謝る横島はエミから視線を逸らして俯いてしまう


「ずっと一人なの?」

「いえ、あの後すぐにヒャクメに見つかったんで小竜姫様やパピリオとは今でも交流がありますよ。 後はシロタマも一年後くらいに探しに来たんで、今でも遊びに来たりしてます」

横島の悲痛にも見える表情にエミは思わず会話を変えていた

今更責めるつもりもないし、ただ横島があれからどうしたのか興味があっただけなのだ


「そう…… 元気そうでよかったワケ」

十数年も一人で居たのかと思ったエミは、予想以上に他者との交流がある横島に少し安堵していた


「そういえばエミさんはどうして此処に? まさか俺を探しに……?」

「自惚れるんじゃないワケ。 私がおたくを探しにこんな山奥まで来る訳ないでしょ? 近くでバイクが故障したのよ」

複雑そうな表情でやって来た理由を尋ねる横島に、エミは高飛車な笑みを浮かべて否定する

あれから時が過ぎエミも昔の若さではないが、色気は昔より増してるかもしれない

そんなエミを見ると、横島は過ぎた時の長さを感じずには居られなかった


「じゃあ、ちょっとバイク見て見ますね。 此処には電話なんて無いんで」

古びた工具を持ち出した横島は、さっそくバイクの修理に向かう

そんな横島をバイクの場所まで案内していくエミだが、横島にバイクを直せるのか半信半疑である


「無理っすね! わからないです」

最低限の点検はした横島だが、やはりバイクなど直せるはずがなくあっさりと無理だと言い切った


「おたくは……」

脳天気にも見える横島に、エミはこめかみを押さえてため息をはく


一方無理だと言い切った横島は少し複雑な表情を浮かべて、手のひらに霊力を集中していた

横島の手に生まれたのは文珠で、【直】の文字を込めるとあっさりとバイクは直ってしまう


「相変わらず凄いわね」

久しぶりに見た文珠にエミの表情も何故か険しかった

そして言葉とは裏腹に重苦しい空気が辺りを支配していく


「これで大丈夫っすよ。 ただもうすぐ雨が降りそうなんで気をつけて帰って下さい」

いつの間にか笑顔に戻っていた横島は、そのままエミにバイクを渡して見送ろうとしていた


「雨が降るの?」

曇りだが雨が降りそうでない空を見上げ、エミは半信半疑で問い返す


「ん~、多分」

「そう、ならしばらくおたくの家で雨宿りさせてもらうワケ。 正直、ここの山道を雨の中走る自信はないわ」

イマイチ頼りない横島の返事だが、エミは信じたようでバイクを引っ張り横島の家に戻っていく


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