その一

「全く…、あんな奴に関わるんじゃないよ! 気分が悪い」

冷や汗を拭き一息つく横島を、メドーサは呆れたように睨む

どうやらメドーサは店内に入った時から微妙な空気に気が付いていたらしく、空気が読めない横島に呆れているようだ


「いや、まさか本当に修羅場だったとは思わなくってさ」

「普通ちょっと見ればわかるだろ?」

全く空気が読めて無かった横島は首を傾げて考え込むが、やはり理解出来ない

まあ横島の場合は、空気が読めてればもっと幸せになってたのは確かだろうが…

やはり横島は横島だった


「あの人可哀相だったな~」

西条はどうでもいいが相手の女性の事を考えると、余計な事をしたかと罪悪感を感じて後悔する横島だったが、謝る訳にもいかずに実に後味が悪い


「騙される方にも問題があるんだよ。 所詮世の中は騙した奴の勝ちだからね」

へこむ横島に声をかけるメドーサだが、彼女の表情は言葉とは裏腹に複雑そうだった


「メドーサ…?」

「嫌いなんだよね。 あんな偽善者は… 神魔界の屑どもを思い出すよ」

メドーサの複雑な表情を気にする横島だが理解出来るはずも無く、静かにメドーサを見つめるだけである


「神族も魔族も本性は似たようなもんなのさ、むしろ小竜姫のような馬鹿正直な奴が珍しいんだよ」

メドーサはその言葉を最後にその話題には触れなかった

あまりに重く深い言葉に横島もまた、その話題を口にする事は無く食事を終える



「なあ、メドーサ…」

帰り道…、真剣な表情で語りかける横島にメドーサは先程の話が聞きたいのかと悩む


「封印解いてくれねえか? そろそろいいだろ?」

「はあっ……!?」

横島の話はメドーサが予想もしなかった、ある意味最も横島らしい話だった

メドーサの体をギラギラとした瞳で見つめる横島は、先程の話などもう頭に無いらしい


「突然そんな事言って、あんた何考えてるんだい?」

「いや、なんかこう…、燃え上がるものが欲しいんじゃー!!」

妙に興奮気味の横島を前にメドーサは深いため息をはく


(あの西条って奴に触発されたか? 全く…、動物じゃないんだから……)

どうやら横島は西条が羨ましくなったらしいと理解したメドーサは、呆れて物が言えない

「なあ、メドーサ!」

期待するような熱い視線を送る横島に、メドーサは何故か笑顔を浮かべていた


「本当に馬鹿な男だね… 女を抱きたかったら口説き方を覚えるんだね」

いつの間にか機嫌が直っていたメドーサは、意地悪な笑みを浮かべて横島の腕を絡める

メドーサの胸の感触をモロに受けた横島の顔は幸せそうに溶けていくが…


「なんかいつもそれでごまかされてる気がするな… 口説けって言われても成功した事無いし…」

一応真剣に考えようとする横島だが、結局胸の感触に全てを忘れたのは言うまでもない


(アタシは拒否はしてないんだがね~ いつ気が付くのやら…)

一番肝心な事に横島がいつ気が付くのかメドーサは楽しみだった



一方のぞみを追いかけて行った西条は、結局追いつく事は出来なかった

「僕のイメージが…… キャリアが……」

どんより暗い空気を纏った西条は、一人夜遅くまでのぞみに連絡を続けたというが……


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