その一

その頃西条は、イギリス時代に遊んだ女に呼び出されて、久しぶりに会うことになりレストランに来ていた


「のぞみ君と会うのも久しぶりだな~」

最近ツイてない西条は、久しぶりにテンションが高く浮ついた感じである


「久しぶりですね。 西条さん」

「やあ! のぞ……」

背後から声をかけられた西条は笑顔で振り返るが、相手の姿を見て固まってしまう


「うふふ、驚きました? 八ヶ月です」

驚きを通り越して固まる西条に、のぞみと呼ばれた女性は意味ありげな笑顔を浮かべている


そう…

のぞみは妊婦姿だったのだ


「いっ… いや~、結婚したのかい? 知らなかったな~」

真っ青な顔で全身に冷や汗を流す西条だったが、なんとか冷静になろうと言葉をかける


「いえ、結婚はしてませんよ」

ニコニコと楽しそうなのぞみと、死刑宣告を待つような西条の二人は見事なまでに対照的だった


(まさか… 八ヶ月前は確か……)

西条は頭をフル回転させて八ヶ月前を思い出していく


「西条さんにご迷惑はかけません。 帰国しても連絡もくれませんでしたし、私は遊びだったのでしょう?」

ニコニコとした笑顔だったのぞみは、突然冷たい表情になり西条に決定的な言葉をぶつけた


「いや… その…」

まるで別人のように情けない表情の西条だが、彼の悪夢は始まったばかりである



「腹減った~ 人助けした後は気持ちがいいな~」

その声は、またもや西条の背後から聞こえて来ていた


「そんなもんかね~ あの神父じゃあ、今頃また美神令子に無理矢理飲まされてる気がするけど?」

楽しそうに会話する二人は、西条の背後のテーブルに座ってしまう


(あの声は……)

西条はこの場所で最も会いたくなかった人物を思い出していた


「西条さん……」

ハッとした西条がのぞみを見ると、怒りな表情を浮かべている

言い訳も出来ない西条に怒りを募らせていたのだ


「いや… のぞみ君、場所を変えてゆっくり話し合おう!」

西条は己の霊感から、一刻も早くこの場所から逃げ出さなければならないと思っていた

後ろの人に聞こえないように小声でのぞみに店を出ようと伝えるが…
 
その言葉がのぞみを余計に怒らせてしまう

「馬鹿にしないで下さい! 私はそんなに軽い女じゃありません!!」

西条の言葉と態度に、のぞみは勘違いしてしまう

この場所から逃げ出したいだけの西条の言葉だが、その言葉は違う方に誤解を受けるような言葉だった


「いや、のぞみ君… 落ち着いて…」

小声でのぞみを宥める西条だったが、そのコソコソと隠れるような姿がのぞみは気に入らない


「西条…?」

そしてとうとう事態は最悪の展開になった

後ろの席に座っていた横島が、西条の名前を聞いて顔を覗き込んで来たのだ


「あっー! 西条! またお前は女を騙してるんだな!!」

顔を隠す西条の姿を見た横島は、いつものように西条の悪口を叫ぶ

会えば口げんかばかりの西条と横島だから、この言葉に意味は無い

しかし、そんな二人の関係を知らないのぞみは信じてしまう


「やっぱり西条さんはそんな人だったのね…」

そんな横島の言葉にのぞみは、軽蔑するように西条を睨みつける


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