その一

同じ日、学校に登校した横島をクラスメートは不思議そうに見ていた

連休の間に日焼けしている横島は、最近の生活環境の変化もあってかなり健康的に見えるのだ


「今度はどんな場所に行って来たの?」

そんな中、愛子はいつものように日焼けの理由を横島に尋ねる

横島の場合、GSのバイトでよくあちこち行くので、今度もバイトでどこかに行ったのだろうと予想していたのだ


「ああ、ハワイに行ってたんだよ。 ほれ土産だ」

「ハワイまで行ったの? 相変わらず、きついバイトね~」

軽い調子で話す横島だが、愛子はまた酷い環境だったのだろうと同情してしまう


「バイト? 違うぞ、というか美神さんのバイト辞めたし… 言わなかったっけ?」

同情するような愛子を、今度は横島が不思議そうに見る


「えっ!? 横島君本当に辞めたの?」

愛子の驚きの声に、周りのクラスメートも横島に視線を向けた

少し前バイトを辞めるような話をしていたので、クラスメート達は特に驚きは無い


しかし、いろいろな話を聞いていた愛子やピートやタイガーは、やはり驚いたようだ

今まで何度も辞めたいと愚痴っていた横島だが、今までは辞めなかったのだ

今回は確かに今までとは違う感じはあったが、さすがにあっさり辞めたのは予想外だったのである


「この前言ったろ。 俺はGSになりたい訳じゃないんだ。 と言うか、給料と労働が割に合わん。 前はいつか元を取ろうと考えてたけど、美神さんじゃ無理だし…」

すっかり過去の出来事として語る横島は、サッパリした様子であった

顔色も良く身だしなみもきちんとしたその姿は、明らかに以前よりも幸せなのが明らかである


メドーサと暮らして約半月、環境の変化は横島の価値観を少しずつ変えていた

もちろん横島の興味の対象が令子からメドーサに移ったのが一番の大きな原因だが、普通にお腹いっぱいご飯を食べれる幸せ

それに一人暮らしの時のような寂しさも無い生活に、横島は幸せを感じている

そんな普通のありふれた幸せを知った横島にとって、令子の存在は過去になっているのだ


「もったいないですノー。 せっかく免許を取ったのに…」

「怖いのとか危ないのとか嫌なんだよ。 美人の嫁さんと退廃的な生活が理想なんだ。 それにもっと楽しい仕事あるかもしれないだろ?」

羨ましそうに横島を見てるタイガーだが、横島にはGSにこだわる理由が無い

横島にとってメドーサとの生活を維持するお金は必要だが、それはGSで無くてもいいのだ


「楽しい仕事って言っても、現実的に横島君の成績じゃロクな仕事に着けないわよ?」

「それはこれから考えるさ。 それに、時給255円で命を賭けるよりはいい仕事あるだろうしな」

考えが甘いと忠告する愛子だったが、逆に令子の事務所よりはまともな仕事なら見つかると言われると納得してしまう


「なんか、横島君が本能で生きないなんて不自然だわ!」

そんなまともな価値観を持ち始めた横島に、愛子は笑って違和感を口にした


「やかましいわ! 俺だって人並みの幸せは欲しいんだよ!」

「フフフ… 横島君が人並みの幸せね~」

少しムッとした横島が反論するが、愛子は笑ってごまかすだけだった

いろいろあるが、横島の学校生活は順調に進んで行く


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