その一

「おはよう、令子ちゃん!」

次の日、朝から花束を手に持ち満面の笑みで令子のマンションを訪れる西条

しかし、令子は冷たかった


「西条さん昨日もお楽しみだったようね。 首筋にキスマークがあるわよ」

「えっ!?」

令子の冷たい言葉に西条は驚いたように手持ちの鏡で確認するが、キスマークなど無い

全ては令子の嘘なのだから


「おやすみなさい!!」

額に青筋を浮かべた令子は、ニッコリとした笑顔でドアを閉める


「令子ちゃん!? 誤解だー! 昨日はあの後警察に捕まって大変だったんだ」

慌てて説明のような言い訳をする西条だが、令子はすでに寝室に戻っており聞いてない


(クッ… 昨晩、気晴らしに真由美君を呼んだのが何故バレたんだ?)

西条は言い訳をしながら令子に呼び掛け続けるが、内心何故バレたのか不思議に思う

まさか令子がカマをかけただけとは予想もしてないようだ



「やだ… ストーカーよ」

そんなドアの前で叫ぶ西条に、同じ階の住人は不審な者を見るような目で見つめながらつぶやく


「いや、僕は違うんだ! ICPOの捜査官なんだ!」

オドオドしながら住人に言い訳をする西条に、住人は逃げるように自宅に戻ってしまった


(一回帰った方がいいな…)

妙な誤解を受けたことで精神的にダメージを受けた西条は、疲れた表情をしながら帰っていく


「えっ…?」

しかし西条の不運はまだまだ続いていた

彼の車は停めた場所には無く、駐禁の違反としてレッカー移動されていたのだ


「はぁ……」

昨日から何度目かわからないため息をはく西条は、トボトボと付近の警察所に歩いていく



その頃令子は、一人酒を飲んでいた

「何よ! 西条さんなんて嫌い!!」

どうやら昨日から酒を飲みつづけたまま朝を迎えたようで、寝室は酒瓶の山である

西条が逮捕された事など知らなかった令子は、昨日西条が謝りに来なかったのが気に入らなくてずっと飲んでいたのだ


「絶対許さないわ!!」

先ほどの反応で昨夜西条が他の女と一緒だったと気付いた令子は、怒り狂ったように叫ぶ


そんな、横島が辞めて以来のストレスを全て西条にぶつけるように叫ぶ令子だが…


「なんか嫌な予感がするな…」

その時、警察所に向かって歩いていた西条は意味不明の寒気を感じていたと言う



その頃ハワイでは…


「また会ったわね」

少し嫌そうな顔をするエミは、ホノルルのブランドショップで横島とメドーサと偶然出会っていた


「こんちわ、エミさん」

「あんたとこの店で会うなんてね…」

笑顔でニコニコと会話する横島に、エミは複雑な感じで答える

世界でトップレベルのブランドショップで、横島と会うなんて嬉しくない


しかも横島とメドーサは、端から見れば仲のいい恋人にしか見えないのだ

そんな二人と一緒に居れば、自分が寂しい人みたいにみえる気がして嫌だった


「いや~、俺は別に興味無いんすけどメドーサが来たいって言うから」

「何言ってんだい、今日はあんたの服買いに来たんだよ! 全く、穴のあいた服とかばっかりなんだから…」

人事みたいに話す横島を、メドーサは不愉快そうに引っ張って行く

しかしエミには二人がイチャついてるようにしか見えなかった


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