その一

その後エミは、バカンスを楽しむと言って部屋を去って行った


「あいつは信用出来るのかい?」

基本的に人を信用しないメドーサは、特に不信な点は無かったが少し疑うように横島に尋ねる


「美神さんが絡まないから大丈夫だと思う。 美神さんとは仲が悪いから損得抜きで熱くなるけど、それ以外じゃ仕事でも無いのにメドーサを敵に回す真似はしないよ」

横島は軽い調子で笑って話すが、メドーサは少し考え込む

本人が問題無くても、誰か第三者に話が伝われば面倒になるかもしれない


(やっぱりアタシには安息の生活なんて無理なのかもしれないね)

このままでは、いつか必ず神族辺りに見つかるだろう

メドーサはそう考えながらチラリと横島を見た


(アタシが神族と戦うことになれば… アイツは……)

そこまで考えたメドーサは、そのまま考えるのを止めてしまう

いつかわからないのだから、今考える必要は無い

そう決めて無理矢理考えるのを止めたのだ


「メドーサ! 海行こうぜ!!」

一方部屋の物色に飽きたのか、ニヤニヤした笑顔の横島は物欲しそうにメドーサを海に誘う


「ああ、そうだね」

いろいろ考えたからか、単純でバカな横島を見てメドーサは何故かホッとしてしまう

そして同時にこんな日々が、一日でも続くことを願っていた



「生きててよかった……」

海に到着した横島は、涙を浮かべて自分の幸せを実感している


「あんたね… そういう言葉は、形だけでも景色を見て言いな」

少し照れた様子のメドーサ、理由はもちろん横島だった

ニヤけた顔が更にニヤけて、メドーサの水着姿をガン見しているのだから仕方ないだろう


「いや! コレを目に焼き付け無くて、何を見ればいいんだ!」

「普段アタシの風呂を覗いてる癖に、なんで海に来てまでアタシにこだわるんだい」

熱く語り水着姿を見つづける横島に、メドーサは微妙に恥ずかしそうにしている


「それとこれとは全く問題が違う! メドーサの水着姿がこれほど新鮮だとは…」

「煩悩を封印してこの状態とはね。 あったらどうなるかと思うとアタシは怖いよ」

普段はこだわりなどまるで無い横島なのに、こんな時だけ妙なこだわりを持っていることにメドーサは何とも言えない表情をしている


そんな二人だが、海では意外に目立って無かった


外人も日本人も多いハワイだけに、横島とメドーサの組み合わせもそれほど違和感が無いようだ

それにイチャイチャしてるようにしか見えない二人だが、ハワイでは珍しく無い

外人は大胆だし、日本からの観光客が騒ぐのはよくあることのようである


そんな環境で横島とメドーサは、相変わらずな調子で海を満喫していくのだった



「なあメドーサ… せっかくだからオイルでも……」

「アタシは魔族だから日焼けなんてしないよ」

さりげないようにオイルを塗ろうと企む横島だったが、その表情は嘘が付けなく横島の魂胆がまるわかりであった


「そっか……」

「わかったよ。 ただし変な事したらすぐに止めるからね!!」

あからさまに落ち込む横島に、メドーサは仕方なくオイルを塗らせることにした


「任せとけ!」

オイルを塗れるとなった途端、ケロッと元気になる横島にメドーサは思わず笑ってしまう


「全くあんたと来たら……」

それ以上言葉は続けなかったが、メドーサの表情から笑顔が消えることは無かった


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