その一

雪之丞がマンションを訪れてから三日が過ぎて、この数日で横島とメドーサの奇妙な同棲もすっかり馴染んでいる


そしてこの日、横島は久しぶりに美神事務所に来ていた

「あら、横島君。 随分久しぶりね」

散々ストレスを溜めてるためトゲのある言葉と表情で横島を迎える令子だが、内心では横島の顔を見てホッとしていた

いろいろ言いたいことやシバきたいことはあるのだが、一応我慢しようとしている令子

この数日横島が居なくて少しは変わったようだ


「今日はちょっと話があったんすよ」

そんな令子の表情を伺いながら怯えたように話しはじめる横島に、令子は冷たい視線を向ける

横島の話と言えばロクな話が無いのだ


「俺、今日でバイト辞めます」

怯えたように小声で話す横島は、いつでも逃げれるように静かに後ずさりしていく


ピキッ!


「………そう。 ご苦労さま。 でもGS免許はやれないわよ」

一瞬石化して固まる令子だが、すぐに我に戻り言葉を返す

どうせすぐに泣きついて来るだろうと、令子には希望的予測があった


「免許は要らないっす。 正直、怖いの嫌なんで… お世話になりました」

令子がキレないことにホッとした横島は、サッパリした笑顔で頭を下げてさっさと帰っていく


「バカね。 どうせあのメドーサ似の女に騙されてるんだわ! いっそこの機会に世間の厳しさを知るといいわ!!」

ワナワナと怒りで震える令子は、自分に言い聞かせるように無人の室内で独り言を言う

あんなセクハラばかりの人間が世間で通用するはずがない

すぐに騙されて酷い目に合って、助けを求めて来るだろう

令子はそんな未来を信じつつ、心の中は不思議な淋しさに包まれていた



「終わったのかい?」

「うん、辞めて来たよ」

一方、事務所を出た横島に話しかけたのはメドーサである

令子の非常識さを痛感しているだけに、心配で着いて来たようだ


「えらく早かったね。 あの美神令子が文珠を作れるお前を簡単に手放すとは思わなかったよ」

ゆっくり歩きながら語るメドーサは、横島にこだわっていた令子が簡単に辞めさせたことに不思議なようである


「いや、ただのバイトだし… 美神さんは昔から俺に興味無いから、嫌なら辞めていいって良く言ってたよ」

「お前ね……」

横島の言葉を聞いたメドーサは呆れたようにため息をはく


令子の強がりや駆け引きの言葉をそのまま真に受けて信じてる横島に、メドーサは呆れてしまう

かつて敵だったメドーサでさえ、令子が横島にこだわっていたのはわかっているのだ

まさに知らぬのは本人ばかりな状況に言葉も出ない


(まあ、辞めるなとは言えなかったんだろうね)

意地っ張りな令子の性格から、何も言えず辞めるのを認めたことを理解したメドーサは、呆れて苦笑いを浮かべる


「どうしたんだ?」

「いや、なんでもないよ」

メドーサの表情に不思議そうな横島だが、メドーサは何も教えるはずがない

自分に有利な状況で、わざわざ敵に塩を送る気など全く無いのだ


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