その一

その日の放課後、横島がいつものように帰ろうと校門を出るとある人物が待っていた


「横島さん!」

横島の顔を見るなり慌てて駆け寄って来たのはおキヌである

彼女は突然バイトに来なくなった横島に、トラブルでも起きたかと心配していたのだ

肝心の令子はと言えば、メドーサと横島が一緒に居た話をおキヌに黙っていた

おキヌの前では、横島には興味がなく来たくないなら来なくていいと意地を張っている


そしておキヌは、令子の様子がおかしいのにはもちろん気が付いていた

毎朝早起きして、何処かに出かけてしまうのだ

普段の令子の行動を考えるとあまりに不自然である

いろいろ悩んだ結果横島に会いに行くことにして、学校に来ていた



「あれ、おキヌちゃんどうしたんだ?」

「どうしたって、横島さんこそ何日もバイト休んでどうしたんですか?」

おキヌがここに来たのが不思議そうな横島に、少しムッとしたおキヌだがとりあえず事情を尋ねた


「ああ、バイトね。 辞めるわ。 落ち着いたら言いに行こうと思ってたんだよ」

軽い調子で重大なことを語る横島を、おキヌは信じられないように見つめる


「そんな…… なんで辞めるんですか!?」

少し固まっていたおキヌだが、何故横島が辞めると言い出したのか理解出来ない


「なんでって言われてもな~ 仕事はキツイし時給は安いし危険だし…、辞める理由ならたくさんあるよ」

あっけらかんと言い切る横島に、おキヌは不思議な感じを覚える

言うことは正しいが、何故か冷たい感じがするのだ


「お給料のことなら私も頼んであげますよ? 今まで頑張って来たのに…」

戸惑いながらも横島を引き止めるおキヌ

横島の言い方から、冗談や単なる気まぐれでないのはわかる


「う~ん、いいや。 もうちょっと普通の生活したいんだ。 何かが嫌になったとか、美神さんやおキヌちゃんが嫌いになった訳じゃない。 ただ、GSのバイトをやる気になれないんだ」

横島の言葉に、おキヌは唖然として聞いていた

あれだけこだわっていた令子への情熱がほとんどないのだ


(横島さん… いったい何があったの?)

おキヌはなんとか横島を引き止めようと方法を考える
 
「それじゃあ、美神さんは西条さんに取られちゃいますよ!」

「西条に取られるのは嫌だけど、どっちにしても俺の物にならないしな~ それに美神さんに関わるとロクなことないし…」

横島が嫉妬するようなことを言い、前の横島に戻そうとするおキヌだが効果は薄かった

一応悩んで令子への執着心は見せるが、明らかに前と比べれば反応が悪い


「今まで一緒に頑張って来たのに…」

「別に会えなくなる訳じゃないし、おキヌちゃんとは会おうと思えばいつでも会えるよ」

落ち込むおキヌに横島は大袈裟だと笑って答える

おキヌの気持ちとは反対に、横島は友達感覚なのだ


「わかりました」

おキヌはそれ以上何も言うことは出来なく帰っていく

そして横島だが、何故おキヌがあそこまでこだわるか理解できぬまま、こちらも帰って行った


26/50ページ
スキ