その一

その頃令子は机に座ったまま眠っていた

授業中に居眠りする学生のように伏せて眠る令子の姿は、まるで疲れたオッサンのようなオーラを漂わせている

本当はマンションに帰って眠ればいいのだが、横島をシバかないうちは帰りたくなかったのだ


「ただいま、美神…さん?」

学校から帰宅したおキヌは眠る令子に毛布をかけて、夕食の支度を始める


結局、令子がこの日横島に会うことな無かった



一方、金持ちになった横島だがイマイチ実感が無い

しかも日頃から忙しい日々が普通だったため、特にすることも無い自由な時間はどうしていいかわからなかった

夕食を自分で作ると言ったメドーサを眺めるしか、することが思い浮かばない


「アタシが料理を作るのを見て楽しいのかい?」

ずっと横島に見られてるメドーサは、不快では無いがさすがに少し気になるようだ


「まあな、美人は見てるだけで楽しいよ。 メドーサの料理する姿もなかなかそそるな! これで煩悩さえ沸き上がれば……」

一応横島は自由な時間を楽しんでいたようだ

煩悩が沸き上がらないため見てるしか出来ないのは悔しそうだが、それでも楽しそうなのには変わらない


「あんたは… 普通は煩悩を封印すれば、そんな考え方も無くなるはずなんだがねぇ」

美人と言われて一瞬顔を赤らめるメドーサだが、イマイチ横島の煩悩の封印が不完全な気がしていた


「俺の煩悩は伊達じゃないからな!」

「そんな自慢するんじゃないよ! 最低限の我慢を覚えな!!」

珍しく自信満々な横島が何を言うかと思えば、煩悩の自慢であった

メドーサはそんな横島に疲れを感じつつ、なぜか心の中で笑ってしまう


メドーサとしては煩悩が悪いとは思ってない

本能なのだし、変に理屈や正義感を表に出す人間よりは遥かに気に入っている

問題はあまりの空気の読めない性格と、プライドの無さであった


「うむ…、一応我慢は知ってるはずなんだが…」

首を傾げる横島を見てると、メドーサは先は長いのだろうと思っていた


そんなたわいもない話をする横島もメドーサも、案外楽しそうにしていたのは気のせいではないだろう

そうして二人は着実に関係を進展させていく

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