その一

「あれでも安い方だよ。 まともに売れば5億はするだろうねぇ。 ただ文珠はいろいろと厄介な物だから、あの程度で売った方が楽なんだよ」

淡々と語るメドーサだが、横島は厄介の意味を理解出来ない

3億だとか5億だとか、すでに話の次元について行けなくなっている


「お前の口座に振り込むから、後で教えな」

「えっ… 俺、銀行口座なんて無いぞ? 家賃や学費は親が直接支払ってるし、バイトは手渡しだしな」

銀行の口座が無いと言う横島をメドーサはポカーンと見つめてしまう


「お前と言う奴は……」

コメカミを抑えて、メドーサはため息をはく

もう驚くことは無いと思う横島の生活だが、今だに信じられないような事実があることに呆れて何も言えなかった


「それで俺の分け前はいくらなんだ? 出来れば10万は欲しいんだが……」

恐る恐る尋ねる横島は、せめて10万あれば贅沢が出来ると夢を見ていた


「何バカなこと言ってんだい? 全部お前のだよ」

不思議そうな表情で見つめるメドーサに、横島は一瞬見とれてしまうが…


「……ええーーー!!! ムリムリムリ! そんな大金貰っても困る!!」

「馬鹿野郎、道端で騒ぐんじゃないよ!」

道端で突然大声で怯えて騒ぐ横島を、メドーサは慌てて引っ張って逃げていく


「全くもう… だいたいなんでお前の文珠の売上をアタシが横取りしなきゃいけないんだよ!」

マンションに帰宅したメドーサは、横島を睨むようにため息をはいた


「いや… だって美神さんは……」

「いい加減美神令子と比べるのはおやめ! あんな奴と比べられるのは不愉快だよ」

何かあれば令子と比べる横島を、メドーサは不愉快そうに睨む


(全く… 何処までお人よしなんだい!)

横島がいかに令子に上手く使われ搾取されてるかと思うと、メドーサは何故かイライラ感じずにはいられなかった


「スマン…」

落ち込み気味に呟く横島に部屋は静まりかえる


「じゃあ、あんたの口座作って9億入れておくから考えて使うんだよ」

落ち込む横島に困ったメドーサは、とりあえず話を進めた


「いや、待ってくれ。 いきなりそんな大金渡されても困るから預かっててくれ。 どうしていいかわからん」

横島としては億単位の大金は逆に怖かった

あまりの大金に疑心暗鬼になるのは目に見えているのだ


「別にいいけど… あんたの文珠の価値なんだからね。 好きに使っていんだよ。 男だったらパーッと使うくらいになりな!」

肝心な時にビビる横島に、メドーサは自分の価値を理解させるには先が長いと思う


「おう! 毎日好きな弁当が食えるな! なんて幸せなんだ…」

「ダメだこりゃ…」

弁当の金額を気にせずに毎日昼食が食べれる幸せを噛み締める横島を見て、メドーサがグッタリしたのは言わなくてもわかるだろう
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