その一

横島が授業を受けている頃、メドーサは横島のアパートに居た


「お客様…、本当に全部運べばよろしいので?」

可愛らしい黒豚のマスコットキャラクターで有名な引越し業者は、部屋を見て困惑気味にメドーサに確認をとる

部屋は相変わらず荒れ果てており、ゴミや雑誌なども散乱しているのだ

業者としては運べと言われればゴミでもなんでも構わないのだが、さすがにここまで汚いと運ぶ品物の選別が必要なのではと思っていた


「そうだね。 ゴミは適当に処分しておくれ。 わからない物は運んでくれて構わないよ」

改めて部屋を見ると目を背けたくなるほど汚い状態に、メドーサは全て業者に任せて帰ってしまう

この日、横島の知らないところで引越しが進められていた



そして昼食時、横島は学校で幸せそうに弁当を見つめている


「久しぶりのハンバーグ弁当ちゃん、会いたかったよ~」

大きなハンバーグが入っている割には安いこの弁当を買う決断をするのに、10分以上悩み迷った横島

悩んだ分楽しみにしており、今日は授業中も頭の中はハンバーグでいっぱいであった
 
 
「横島君、気持ち悪いわ…」

呆れたように冷めた視線を向けているのは愛子である

愛おしそうに弁当と見つめ合う横島は、ひどく気持ち悪い光景だったようだ


「気持ち悪くて、悪かったな… 俺にとっては重大なことなんだよ」

少しムスッとする横島は、近くからくるタイガーの物欲しそうな視線を無視して弁当をガツガツと食べていく


「美味い! 美味い! ハンバーグなんて二週間ぶりだ…」

わずか600円のコンビニ弁当を食べて横島は感動で涙を流している

そんな横島にはクラスメートの生暖かい視線が集まるが、本人は気にするはずもない


「それだけ喜べば作った人も本望でしょうね…」

ボソッとつぶやく愛子の言葉で教室内は失笑に包まれる


「それにしても、横島さんが普通の昼食を食べるなんて初めてですね」

何気に失礼なことを言うピートを横島は横目で睨みつけた


「お前らが俺をどう見てるか良くわかったよ」

ムスッとしたまま弁当を食べる横島

さすがにこれだけ好き勝手言われると気分が悪いようだ


やはり、横島の学校生活は相変わらずのようである



一方美神事務所では令子が目の下にクマを作り、髪はボサボサな状態で事務所の中をうろうろしていた


「横島のやつ… いつ来るのよ」

令子は眠気はあるのだが、横島がいつ来るかわからないので気になって眠れない

睡眠不足と横島への想いで、明らかに挙動不審になっていた


「早く来なさいよ!!」

誰も居ない事務所内で叫び声をあげる令子に、答える者は居なかった


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