その一

その後、洋風の朝食を食べながら向かいに座るメドーサを横島はチラチラと見ていた

何故殴られないのかが気になり落ち着かないのだ


「ふー、今度はどうしたんだい?」

また様子のおかしい横島に気が付いていたメドーサだが、相変わらず理由がわからない

そもそも横島のセクハラが嫌なら追い出せばいいだけなのだ

メドーサとしてはある程度のセクハラは認めてると言ってもいい

令子のようなあまのじゃくでも、未経験の小娘でも無いのだから、一々セクハラごときで殴ったりはしないのだ


「なんで怒らないんだ…?」

怯えたように恐る恐る問い掛ける横島に、メドーサはため息をはく


「あんたね… 何がそんなに怖いんだい? だいたいアタシは何を怒ればいいのさ」

横島の気持ちや理由が全くわからないメドーサは、くだらないことを気にしてるのだろうと思いつつ訳を聞く


「いや、今朝起きたら胸が…」

微妙に顔がニヤける横島

殴られる恐怖や殴られない不気味さはあるが、思い出したらかなり幸せだったらしい


「またくだらないことを気にして… あんたのセクハラに一々怒るくらいなら追い出してるよ!」

当然のように正論を言うメドーサを横島はポカーンと見つめる


(なんで怒らないんだ! いや、なんで追い出されないんだ!?)

メドーサの言葉に一瞬ホッとする横島だが、今度はその言葉の意味を考えると不思議でならない


「つまんないこと気にしてないで、さっさと学校に行きな! 終わったら真っすぐ帰ってくるんだよ」

「ああ…」

食器を片付けながらそんなことを言うメドーサに、横島は素直に返事をして着替えを始める


「横島、あんた昼はどうするんだい?」

「今月はもう金がヤバいからな… 今日は無理だ。 数ヶ月ぶりに朝飯食ったから夜まで大丈夫だしな」

ふと思い出したように昼食を尋ねるメドーサに、横島は予想通りの答えをした


昼食抜きだと言う割には表情が明るい横島

今朝は思わぬ感触を堪能したし、珍しく朝食を食べれたから幸せだった


「はあ…、あんたってやつは。 これで昼飯食べな」

メドーサは呆れたように千円を横島に手渡す


「うん…? 貰っていいのか?」

横島は驚きに満ちた表情で千円とメドーサを交互に見つめる


「ああ、それで昼飯食べな」

「おおー! 千円もくれるなんて… これで二週間は昼食を食えるぞ!」

昼食代として渡した千円に感動する横島は、思わずこれで二週間は昼食食べれると喜んでしまう


「その考えをやめんか!」

バコッ!!


あまりの情けない考えにメドーサは思わず殴っていた


「いてぇな~」

殴られた頭を抑える横島だが、痛いと言うが実際それほどでもない

令子と違い手加減はキチンとされているようだ


「それは今日の昼食代だよ! 何を考えてたか知らないけど、普通に食べな!」

睨んで説教するメドーサに横島は不思議そうに首を傾げる


「昼食と言えばパンの耳なんだが… 安くてお腹いっぱいになるんだ!」

ちょっと自慢げに話す横島にメドーサはうなだれてしまう


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