その一

マンションに戻った横島とメドーサは、特に何かする訳でも無く無言のままテレビを見ていた

もちろん横島もメドーサも内容なんて見てないが、何か会話が続かない


(結局一緒に戻って来ちまったね…)

終わりにしようと横島に別れを告げたつもりなのに、また一緒に帰って来てしまった

メドーサはどうすればいいか悩む気持ちと、どこかホッとしている気持ちの両方が心にあった


(うむ~ メドーサはなんで泣いてたんだろうか? 俺なんか傷付けたかな?)

一方横島は横島で、何故メドーサが突然泣いたかわからない

あの程度の怯えたり騒ぐのは日常茶飯事な横島なのだ

まさかメドーサがあの行動を気にしたとは全く気が付かない



それからどれくらいたったろうか…

辺りが夕方を過ぎ暗くなり始める頃、メドーサはようやく横島を見つめて話を始める


「アタシと一緒に居るのが嫌なら帰っていいよ。 煩悩の封印も解いてやるし、アタシは東京から消えるよ」

無表情で淡々と話しているつもりのメドーサだが、少し声が震えていた

それでも溢れてくる感情を押し殺し、最後まで横島を見つめる


「メドーサが迷惑なら帰るが…、俺なんかお前を傷つけること言ったか? 俺は泣かせるつもりなんて無かったんだ。 お前と一緒だと楽しいしな」

メドーサの少し辛そうな表情を見て、横島は自分がそんなに傷つけてしまったのかと罪悪感でいっぱいだった


「傷つける? 何を言ってるんだい? お前がお尋ね者のアタシと一緒なのが怖くて嫌なんだろ?」

「怖い? 俺そんなこと言ってないぞ?」

「はあ? あんたデジャブーランドでアタシが監視されてるかもって言ったら怖がってたじゃないか!」

数時間が経過してようやく話がすれ違ってることに気が付いた二人は、互いに不思議そうにしながら思い出してゆく


「あー、あの時の事か! あれはいつものことだよ。 あんなもんで怖がってたら美神さんの下で働けんしな。 あんなもん次の瞬間忘れてたよ」

詳しく思い出して、ようやくメドーサが言いたいことを理解した横島だが、あれはいつものことだと笑ってしまう


(こいつは… 何処まで非常識なんだい!!)

あまりに軽い横島の様子に、ずっと真剣に悩んでいたメドーサは自分が馬鹿馬鹿しくなっていた


「そうかい… なら当分煩悩の封印は継続するからね。 あんたここに住みな。 アタシが一から仕込んでやるよ」

ニヤリと意味深な笑みを浮かべて横島を舐めるように見つめるメドーサ

対して横島はメドーサが元気になって、嬉しいような怖いような複雑な気持ちであった


「うん!? ちょっと待てー! 封印は解いてくれる約束やろー!」

話の内容にいつの間にか煩悩の封印継続が入っていたため、横島は泣きながら抗議する


「あれはアタシを惚れさせたらって約束だよ。 まあアタシがあんたに抱かれたくなったら戻してやるさ」

サディスティックな笑みを浮かべてキッチンに向かうメドーサを見て、横島は涙ながらに抗議を続ける


「無理だー! メドーサが俺に惚れるなんてありえねぇー!!」

「さて久しぶりに夕飯でも作るか… あんたもいつまでも騒いでないで、何が食いたいんだい!」

すっかり自分のペースを取り戻したメドーサと横島

二人の賑やかな夜は始まったばかりである


この時横島は、メドーサがもう一つ話していた一緒に住む話はすっかり頭になかった

そしてなし崩し的に同棲が始まってしまう

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