その一

「じゃあ、どっかの外人部隊とかに売る気だな! 頼むから辞めてくれ! なんでもするからさ」

不安そうに泣き付く横島をメドーサは疲れたように見つめる


「あんたって男は… 一体どんな人生送って来たんだ? あんたの服があんまりだらしないから買ったげただけだよ。 ほら、さっさと行くよ!」

説明しても不安そうな横島をメドーサは引っ張るように歩いてゆく

(まったく… あたしはそんなに信用無いかね! そんな姑息な事すると思われてるとは…)

メドーサは内心不愉快であった

魔族としても女性としてもプライドがある

戦わないと言ったのに、コソコソと殺したり売り払ったりするはずがないのだ


(メドーサは何を考えてるんだ? モテない俺なんかとデートなんかするはずが無い!)

一方横島は、メドーサと言うより自分の状況が信じられなかった

横島が幸せになろうとしたり、いい事があると大抵は後でヒドイ目に合うのだから…


だが、横島は肝心な事を知らない

そんな時横島を不幸に落とすのは、令子だという事実を横島は知らないのだ



そんな微妙な空気の中、メドーサが横島を連れて行ったのは都内の某高級寿司屋である


「なあ、メドーサ… なんでお前の行く店はいつも値段が書いて無いんだ?」

カウンターに座りメニューを見るが、もちろん値段が書かれてない

今回は横島が寿司を希望したからわざわざ来たのだが、その店は横島の想像した店とまるで違っていた

前回、メニューの字が読めなかった事を考えればまだマシなのだろうが

貧乏が体に染み付いた横島としては値段が無いと怖くて注文出来なかった


「恥ずかしい事を言うのはお止め! 寿司屋はこれが普通なの!」

周りの客や寿司屋の大将が微妙に笑いをこらえてるのを見て、メドーサは恥ずかしそうに横島を睨む


「うーん、じゃあタマゴをお願いします」

メニューを見てあまり高くないだろうタマゴを恐る恐る頼む横島に、メドーサはため息をつく


「後は適当に見繕っておくれ」

横島にこれ以上選ばせるとタマゴを連発するのではと不安になったメドーサは、全ておまかせにした


「おっ! 美味いな~ タマゴってこんな美味いんだ~」

タマゴ一貫食べて驚く横島に、メドーサはまた恥ずかしそうになってしまう


(こいつにプライドを教え込むまでに、どれだけ恥をかけばいいのやら…)

メドーサが心で愚痴る間も、横島は大袈裟に喜びながら寿司を食べてゆく

結局、横島は生まれて初めてだろう高級寿司を心ゆくまで堪能していた



「なあ横島… お前文珠使いなんだろ? もう少しでいいから自分に自信持ってくれないか?」

寿司屋を後にして並んで歩く中、メドーサは横島の様子を探るように見つめながら話している


「いや… でも俺一人じゃなんにも出来ないし…」

自信など全くない様子の横島にメドーサは困り果てたように笑う


「あんた、文珠がどれだけ凄いか知らないのかい? 文珠使いって言えばどんな魔族も一目置く存在なんだよ… 小竜姫や美神令子より凄い能力なんだよ」

まるで説得するようなメドーサに横島は真剣に考えるが…

横島に理解出来るはずがない


横島は文珠使いではなく、文珠が使える素人と言った方がいいのだから…


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