その一

 
  第四話妙神山のお正月



その日、小竜姫は楽しそうに鼻歌混じりにお雑煮を作っていた

「う~ん… 味はこんなものですね♪」

最後に味見をして笑顔で鍋に蓋をした小竜姫は、数日前から用意していたお節料理をテーブルに並べていく

豪華な重箱が5段はあるお節料理は、見た目からして素晴らしく、小竜姫の気合いが見てわかるようだった


「今日はえらく気合いが入っとるの…」

珍しく豪華な料理に老師が驚くのも無理は無い

固い性格からか、小竜姫の普段の料理は質素な物ばかりである

それは例え正月でも例外が無かったはずなのだが…


「小竜姫~! 横島はまだでちゅか!?」

バタバタと走って来たのはパピリオである

この日の為に小竜姫が仕立てた晴れ着を来て、横島が来るのを今か今かと待ちわびていた


「もうそろそろですよ。 私も着替えないと!」

何度も横島はまだかと聞くパピリオを小竜姫は微笑ましく見ていたが、自分もそろそろ着替えなくてはと自分の部屋へ急ぐ


「そうか… 今日はあやつが来ると言っておったの。 どうりで二人共気合いが入ってるはずじゃ」

老師は最近良く遊びに来るようになった人間を思い出し、今日は面白くなるだろうと笑みを浮かべる


「サルじぃ! わたちは変で無いでちゅか?」

慣れない晴れ着で動きにくそうなパピリオは、老師の前でクルリと回った


「バッチリじゃ! その姿で迫れば、あの小僧もイチコロじゃよ。 例えばの……」

「老師! パピリオに変なこと教えないで下さい!」


老師はパピリオに横島へのアプローチを教えようとしていると、背後から小竜姫に怒鳴られる


「いや… ワシは別に…」

殺気立つ小竜姫に、老師は思わず後ずさりしていく


「横島さんにそんな冗談が通じないのはご存知でしょう!? 間違ってパピリオに飛び掛かったらどうするんです!」

絶対に許しませんと言わんばかりの小竜姫の殺気に老師は静かに謝る


「わたちは別にいいでちゅよ」

「ダメです! それに私だって……」


自分は構わないと言うパピリオを威圧して黙らせる小竜姫は、何故か途中で顔を赤らめだす


「なんなら小竜姫にも男への迫り方を伝授してやるぞ?」

顔の赤い小竜姫に、老師はニヤリと笑みを浮かべてささやく


「いえいえいえ… 私はそんなつもりじゃないです! それに迫るよりは迫られる方が…」

顔をさらに真っ赤にした小竜姫はブンブンと首を横に振る

しかしニヤケた顔は直らなく、何かを想像しているようだ


「ムッ… 横島はわたちのでちゅ! 小竜姫のおばちゃんには渡さないでちゅ!」

まるで乙女のような小竜姫に対抗心剥き出しになるパピリオ


「おばっ… おばちゃん… 私は横島さんに若くてピチピチと言われてるんです! おばちゃんじゃありません!!」

パピリオの言葉に、今度は小竜姫が剥きになる


二人の言い争いは横島が来るまで続いたと言う


「うむ、やはり賑やかなのはいいの~」

原因を作った老師はそんな二人を放置して、一足先に酒を飲んでいた


そんな…

ある正月の妙神山の朝である


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