その一

一方の横島は小竜姫の様子が変わったことに当然気づいていた。

白龍会の面々に会うまでは楽しそうだった小竜姫の表情から突然笑顔が消えているのだから、気付かない方がおかしい。


「小竜姫さま、大丈夫ですって。 きっと美神さん達が何とかしてくれますよ」

笑顔が消えた小竜姫に横島はなんとか励まそうと思い、出来るだけ明るく声をかける。

まさか小竜姫が横島をGS試験に出したことを後悔し始めてるとは、横島自身は気付くはずもない訳だし。


「……横島さん」

少し困ったようにオロオロと励ます横島に、小竜姫は言葉に出来ないほど感情が溢れていく。

そして長い時を経て再会した横島への強い想いが溢れれば溢れるだけ、罪悪感と後悔が増していってしまう。

結果小竜姫は一つの決断をすることになる。



「横島さん、次の試合は出ないで下さい。 どうやら私が間違っていたようです」

それは一昨日から変わった小竜姫でも以前の小竜姫でもなく、全くの別人のようであった。

表情を押し殺したような笑顔を見せた小竜姫は、横島に次の試合には出ないように告げるとそのまま離れて行ってしまう。


「なあ……、泣いてなかったか?」

笑顔のまま横島から離れていく小竜姫だが、振り向きざまに涙が流れたのを横島は見てしまった。


「おい、バンダナ。 いったいどうなってんだ!?」

「私にも分からぬ。 全て上手く行ってるはずなのだが……」

あの小竜姫が涙を流した事実に横島は呆然として慌てて心眼に理由を尋ねるが、その理由は心眼でさえ分からないままである。

つい先程までは次の試合など問題ないと言っていたのに、何故突然変わったか理解出来ない。


「なあ……、さっきの連中がメドーサと組んでるなら、あいつら締め上げて証拠掴めばいいんだろ? 次の試合は絶好のチャンスじゃないのか?」

「そうだな。 次の相手ならば締め上げればボロを出すだろう。 だがお前が連中に目をつけられることにもなる。 それがどれだけ危険かはお前にも分かるだろう」

小竜姫が涙を隠して居なくなったことで横島は正直戸惑っている。

何か幸せな夢から覚めたような虚脱感が襲ってくるが、横島はそれをどうしていいか全く分からなかった。



(ここでメドーサを倒して、神界に行き全てを報告しましょう。 そうすれば……、そうすれば……)

そして小竜姫は突然の横島との再会以来、自分がいかに浮かれ過ぎていたか改めて感じていた。

メドーサを倒すのは簡単ではないが、小竜姫は過去の自分より二百年の違いがあり勝てる自信もある。

かつてメドーサに翻弄された反省を生かして、二百年実戦的な修行を積んで来たのだから。

横島が普通の人間として幸せに生きるために、小竜姫は歴史そのものを変えてしまおうと決意していた。

しかし……、小竜姫は運命と歴史を少し甘くみていたことをすぐに後悔することになる。



「おい、バンダナ。 頼むから命だけは守ってくれよ!!」

会場でメドーサを待つ小竜姫は二回戦までと違い怯えた様子の横島が、心眼を頼りつつも始めて自らの意思で試合に望もうとする姿を見てしまうのだから。




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