その一

「しょっ……」

「陰念!!」

二回戦が終わった横島は小竜姫と一緒に休憩しに控室の方に向かうが、途中で白龍会の三人とばったり会ってしまう。

小竜姫の顔を見るなり慌てたような陰念に、勘九朗は少し焦った様子で口止めする。

実は小竜姫が会場で横島とイチャついていたのは、白龍会の面々も知っていたし実際に見ていた。

小竜姫の顔自体はあまり知られてなくGS協会でも幹部クラスにならなければ知らないが、彼らはメドーサから教えられていたのだろう。


「あら白龍会の皆さんですね。 貴方方は何故メドーサに従ったのですか?」

偶然会ってしまい緊張感溢れる白龍会の三人に、小竜姫は何の遠慮もなくメドーサの名前を口にする。


「……何のことかしら?」

緊張感溢れる白龍会の三人は小竜姫の言葉で一斉に顔色が変わるが、横島は一人意味が分かららないのでポカーンとしていた。

冷や汗を流しながらも否定する勘九朗だったが、正直彼ら三人の顔色だけで証拠になりそうなのは史実と同じだった。


「貴方達の人生ですから、どう生きようが自由です。 でも自由には相応の責任が伴うことも忘れないで下さい」

凛とした本来の小竜姫らしい表情で語るその言葉に、白龍会の三人は返す言葉が出ない。

ただし場違いな空気に戸惑う横島と腕を絡ませてなければ、もっとよかったのだが……。

結局小竜姫はそれだけ話すと横島と共にその場を離れるが、彼らは何も出来なかった。


「顔に傷があった陰念と呼ばれていた男が横島さんの次の相手ですよ」

「えっ!? 俺あんな奴と試合するんっすか!?」

白龍会の者達から離れた小竜姫は横島に次の相手が陰念だと告げるが、横島は当然のごとく嫌そうな表情をする。

勝ち負け云々よりも横島はあの手の人間が苦手なのだ。


「あの男は問題ありませんよ。 間違っても横島さんの結界を破る実力はありません」

流石にもう横島も小竜姫を疑ってる訳ではないが、生理的に嫌なのはやはり変わらないらしい。

ただ辞めると言わない辺りまだマシなのだろう。


「しかしなんであいつらメドーサなんかと……、胸に釣られたのか?」

「似たようなものかも知れませんね。 力が欲しかったのでしょう」

その後飲み物を片手に控室で休憩する横島だが、勘九朗達がメドーサに従う理由がわからないらしい。

胸に騙されたのかと半ば本気で考えているが、小竜姫はそんな横島を見てくすくすと笑いつつ似たようなものだと告げる。


「力すっか?」

「ええ。 強さそのものに憧れ求める者。 強さの先にあるお金や権力を求める者。 理由はそれぞれ違うのでしょうが」

小心者で臆病な横島には理解出来ないようだったが、小竜姫は少し悲しそうに彼らが力を求める理由を語っていく。

結局のところ世の中が弱肉強食なのは現代でもあまり変わらなく、弱者が生きやすい世の中になってはいるものの根本のシステム自体は大差ない。

まして実力が物を言うGSにおいて、彼らのような者はさほど珍しくはないのだ。


「普通が一番いい気がしますけどね」

「……そうかも知れませんね」

一方やはり横島は力を求める気持ちはあまり理解出来ないようだったが、小竜姫はそんな横島を戦場に駆り立てようとしている自分にふと罪悪感を感じてしまう。

もしかすれば横島はGSから離した方が幸せなのかもしれない。

しかしそうすると小竜姫と横島は住む世界が違ってしまうのだ。

この時代に来て以来小竜姫は自分の想いだけで行動していたが、本当にこれでいいのか疑問を感じ始めていた。



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