その一

西暦2199年

東京のビル街の谷間にある墓地片隅に、一つだけ花やお供え物が溢れてる墓がある


《横島家代々墓》

そう刻まれた墓石の前で一人の女性が立ち尽くしていた


「お久しぶりです、横島さん。 先日貴方の残留思念が現れたと聞きました。 相変わらず非常識ですね」

200年前と変わらぬ面影の女性は少し寂しそうに笑みを浮かべる


「世界を救った貴方が人として死んで転生したいと言った時……、私は悲しかった。 てっきり一緒に神族として歩んで行けると思ってましたから」

置場がないほと置かれた花の中に彼女は持参した花を捧げ、しばらく墓石を見つめ続けていた

先程まで晴れていた空が雨に変わっても、彼女はそのまま傘をさす事なく立ち尽くしている


「会いたいです。 もう一度…… 貴方の転生を待ってるつもりですが、時々我慢出来なくなる事があります。 もう一度……貴方の声が聞きたい」

降り出した雨はその瞬間土砂降りに変わった

まるで張り裂けそうな彼女の心を表すような土砂降りの豪雨は、稲光を呼び嵐へと変わっていく



それは一瞬の出来事だった

空を駆ける雷が彼女に降り注いで……骨一つ残さず消えてしまう



「小竜姫様、聞いてる? どうかしたの、急にぼうっとして」

「……美神さん?」

突然目の前に現れた令子に小竜姫は驚愕して言葉がでない

先程まで横島の墓の前に居たはずなのに、自分は夢でも見てるのかと思い言葉がでない


「小竜姫さまああああ!!」

その声に小竜姫は心臓が痛いくらい高鳴るのを抑えきれなかった


「おおっ……! 相変わらずお美しい!! またお会い出来て光栄っス! ぼかあもーー、神様と人間の禁断の恋にっ……!!」

混乱と胸の高まりが収まらない小竜姫に、横島は興奮した様子で飛び掛かる



しかし次の瞬間、その場には沈黙が走っていた

横島はてっきり避けるかたたき落とされると思っていたのに、小竜姫に抱き着く事に成功してしまったのだから……

小竜姫の温かさと柔らかさを感じながらも、横島の顔色は真っ青に変わっていく

いくら優しい小竜姫でも、流石に無礼打ちで殺されるかもしれないと不安になったのだ

顔を真っ赤にした小竜姫と逆に顔を真っ青した横島は、まるで時間が凍りついたように固まったままなのである


「しょっ……小竜姫様?」

いつまでたっても変わらぬ二人の変わりに動いたのは、信じられないように驚いた令子だった

横島を小竜姫から無理矢理離して蹴り飛ばした令子は、どこか悪いのかと本気で小竜姫を心配していた


「ここは……美神さんの事務所ですか?」

「そうよ。 明日のGS試験に潜り込む打ち合わせしてたじゃないの!?」

真っ赤な顔のままで放心状態の小竜姫の言葉に、令子は本気で救急車が必要かと悩んでしまう

そんな令子と横島をじっとりと見つめた小竜姫は、無意識に涙を流す


「すんません! すんません! 勘弁して下さい」

突然涙を流す小竜姫に横島は慌てた様子で土下座を繰り返していく

抱き着いたのがショックだったのだろうと思ったらしい



「……横島さん。 貴方もGS試験を受けませんか?」

横島に続き令子も謝り出す中、小竜姫は横島の手を取り立ち上がらせると少し震えた声でその言葉を告げていた

何度同じ夢を見たかはわからない

あの時、この瞬間に戻れたらやり直したい

横島が亡くなってから100年以上、そんな夢とも妄想ともとれる事を小竜姫はずっと願っていた


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