その一

それから横島と小竜姫は、一日数件から多いときは数十件のメールをしていた

小竜姫はその生真面目な性格からか、メールの返信は待たせてはいけない物と思い込みがあるのだ


そのため最初は自室に隠しコソコソと使っていた小竜姫だが、いつの間にか素早く返信するために携帯を隠して持ち歩いている


「うむ、予想通り小竜姫は携帯にハマリ出したな」

「メル友が出来たみたいなのねー、しかも相手は男の人」

老師とヒャクメは小竜姫が洗濯で居ない間に、ニヤニヤと密談をしていた


「大丈夫かの? 堅物で男や人界に免疫の無い奴ゆえ少し心配だのう」

言葉は心配そうだが、表情は楽しそうな老師

このまま小竜姫を世俗化すれば、あれこれ言われずに済むと思うと期待もあるようであった


「今のところ大丈夫そうなのねー」

「一応相手を調べた方がいいかもしれん。 変に騙されて携帯やパソコンを嫌いになられると困るしの」

コソコソと密談するヒャクメと老師は、一応小竜姫のメールの相手を調べることで意見が一致する



一方そんな事態になってるとは知らない小竜姫は、この日も横島にメールを送っていた


《高島さん、学校は楽しいですか? 私はあまり出歩けないため少し羨ましいです》

この数日で小竜姫自身、今まであまり興味を示さなかった人間の暮らしや文化にかなり興味を持ち初めていた

メールと言うコミュニケーションが、遠い世界だったはずの人界の暮らしを短かに感じさせている



そしてその頃、横島はバイトを探しに街をぶらついていた

生活に困っては無いがやはり自由になるお金は欲しいと思い、放課後に出来るバイトを探している


そんな横島歩く先では、ある女性がビルの入り口にバイト募集の貼紙をしていた

「とりあえず事務所前に一枚、後は求人雑誌にでも頼もうかしらね」

昼間っからボディコンを来た派手な女性に、横島は魂が揺さぶられるような感じを受け、目が離せない


ピリリ~ン


そんな横島を現実に戻すかのようにメールの着信音が鳴る


「んっ… シャオからだな」

反射的に携帯を開いた横島は、そのまま歩きながらメールを読んで返事を打ち込んでいく


《結構楽しいですよ! 勉強はそんなに好きじゃないけどね》

そんな返事を返しつつ、横島は小竜姫が送って来たメールを読んで相手が病弱なのかと心配になっていた


そして横島がメールを送信した時には、すでに先程の女性は通り過ぎており横島自身の記憶にも残って無い


美人に目を奪われることは、横島のみならず男なら誰でもあるだろう

そんな何処にでもある、ただのすれ違い


この時、世界が某時系列とは違った方向に進んだ重要な瞬間だったことは…

横島もすれ違った彼女も、そしてメールを送った小竜姫も気が付くことは無かった



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