その一

横島はタマモの温もりと小ぶりだが胸の感触に顔が緩んでいた…


「俺の給料であそこに行くのは無理なんだよな…」

横島は困ったように言った


「もう~ いい加減給料上げてもらうか、仕事変えなさいよ!」

タマモはわかってはいたが、残念そうに横島を睨んだ


「美神さんだからな~ 給料上げるのは無理だよな…… いっそ仕事変えるか?」

横島は少し真面目な顔で話した


横島自身

ずっと考えていた


このまま行けば、一生こき使われそうだ…

ならもっと他の仕事をした方がいいのでは…?

そんな思いもあった…


元々、令子の色香に惑わされたバイトだ

だが今は令子に色香を感じなかった


体はともかく…

あの守銭奴の考えと、おっさんの趣味…

そしてワガママだらけの性格に、すっかり色香を感じなかくなっていた


「なら仕事変えなさいよ! 別に金持ちになれとは言わないけど、人並みのお金は欲しいわ」

タマモは横島を急がせるように話した


「まあ… そうなんだが… ってか、なんでお前がこだわるんだ?」

横島は本当に不思議そうに後ろのタマモを見た


「私にそんな口を聞いていいのかな~? また毎日カップ麺の生活がしたいの?」

タマモはニヤリと悪い笑みを浮かべて勝ち誇っていた…

横島の顔にはすぐに冷や汗が浮かんできた…


タマモはなんだか言っても、少ない給料をやりくりして、横島にまともなご飯を食べさせていた…


すっかりそんな生活になれた横島は、今更カップ麺やパンの耳の生活に戻るのは嫌だった……


「タマモ… 俺が悪かった… 新しい仕事探すから勘弁してくれ…」

横島は顔色が悪くなって必死に謝った


「わかればいいのよ。 ああ、横島が美神の事務所辞めたら、私ここにずっと住むから… もう美神達に隠す必要無くなるし…」

タマモは嬉しそうに、爆弾発言を言っていた…


「へっ……? 意味お前わかってるのか? 俺と同棲するって意味だぞ?」

横島は呆けた顔でタマモを見ていた


「じゃあ、辞める。 どっかの知らない男に拾われるからいい」

タマモは横島から離れて、不機嫌そうに話した


「おいっ! そんな冗談言うなよ! 俺の部屋に住んでいいからさ…」

横島はムキになってタマモを抱き締めた


「横島……」


二人は見つめ合っていた…


第三者が見たら、恋人以外の何者にも見えない…


だが、二人は最後の言葉を口にしてなかった…


横島は自分がモテる訳ないと思い込んでいるし…


タマモは人間で無い自分が拒否されるのが怖かった…



「横島… ちゃんと捕まえてくれないと、私居なくなっちゃうからね… 後で後悔しても知らないんだからね…」

タマモは横島に抱かれながら呟いた


だが…

タマモの内心は違っていた

(私… あなたから離れられない… 絶対に離れない…)


タマモはこの温もりを手放すことは出来なかった…


「タマモ… お前に話してなかったが、俺は人間じゃないんだぞ? 魔族なんだぞ?」

横島は険しい表情で告白した…


「横島…、馬鹿じゃないの? そんなのずっと前から知ってるわよ!」

タマモは呆れていた…


「お前何で知ってるんだ!?」

横島は驚きを隠せなかった…


「私は金毛白面九尾よ! 他の人間は騙せても私は無理よ? 第一、こんなにくっつけば気がつくわよ」

タマモは未だに隠していたつもりの横島に苦笑いしていた


横島はタマモの言葉になんて言っていいかわからなかった…

タマモはそんな横島に微笑んで話し出した

「あなたの過去に何があったかなんて興味無いわ。 人間だろうが魔族だろうが関係ない… 横島は横島なんだから…」

タマモはそれだけ話すとまた横島に抱きついた


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