その一
『旅立ちの春』
漆黒の闇夜を彩るような満開の桜の花が目の前に広がる公園で、横島は静かに夜空を見上げていた
都会の明るい光で星すら見えないほどの無粋な夜空に思わず文句を付けたくもなるが、こればっかりは仕方ない
「サボってるとまたシバかれるわよ」
「サボろうが真面目に働こうが俺がシバかれるのは決まってるんだよ。 ならサボった方がいいだろ」
深夜を越えて朝方に差し掛かりそうな頃、公園で寝転びサボっていた横島に声をかけたのはタマモだった
どうやら横島は花見で来てる訳じゃなくバイトで来てたらしい
「珍しいわね。 あんたが花を見るなんて」
「別に花を見てる訳じゃないよ。 ただサボってるだけだ」
少し離れた場所に座ったタマモは横島の様子を伺うように声をかけるが、その答えはいつもの横島と微妙に違っている
タマモはその変化に気付くが、特に何も言わぬまま二人は静かに夜の桜を見つめていた
「GS辞めるんだって?」
「俺には向かないからな」
ついさっきまで夜通しで騒いでいた花見客も少なくなり、二人の周りは静かな夜の街の息吹に包まれている
綺麗に咲き誇る桜の花を見てるのはずの横島とタマモの周りには、何か冷たい空気が漂う
「これからどうするの?」
「二~三年は世界中を回ってみるつもりだ。 一人旅って感じかな? その後はまだ考えてないよ。 ただGSに戻ることはないと思う」
互いに目も合わせぬ横島とタマモは淡々と会話を続けるが、その距離は座る位置と同じく微妙なものである
横島がGSを辞めると告げた時、動揺するおキヌとシロとは対照的に令子とタマモは冷静だった
その訳は第三者には分からないが、横島の決断をどこか予想していたのかもしれない
「どっかでくだらない女に騙されて終わりなんじゃないの?」
「そうかもな~ まあ、それならそれでいいさ」
ゆっくりとぽつりぽつりと続く会話に、東の空はいつの間にか明るくなってくる
夜の闇から昼の光に変わるその瞬間を、二人はただ見つめてるだけだった
「相変わらずいい加減ね」
「まあな、俺らしいだろ?」
夜から朝に変わる空を見つめたままだった横島は、クスッと笑ったかと思えば起き上がりタマモを見る
「一緒に来るか?」
「あんたと二人旅なんて、これ以上ないほどのギャンブルよね」
「金持ちの王様でも見つかるかもしれんぞ?」
「もう王様は懲り懲りよ。 でも……世界は見てみたいな」
いつの間にか二人の座っていた距離は近付いていた
どっちから近寄ったのかは分からないが、今はその気になれば触れ合えるほどの距離である
「お前を置いていくと日本の女王にでもなってそうだしなー 仕方ないか」
「あんたこそ一人で知らない場所に行く勇気がないだけでしょ? 素直になれないのね」
「どっちがだよ」
桜の木々の隙間から朝日が差し込み始める中、二人は相変わらずの口調と表情で会話を続けていた
そんな会話が途切れた瞬間、朝日に照らされた二人は静かに重なるのだが……
「あの二人、私達の存在完全に忘れてるみたいね」
「まさかタマモちゃんに出し抜かれるなんて……」
「クッ……」
仕事が終わり横島とタマモを探しに来た令子達が見ている事実に、二人は全く気付いてなかった
漆黒の闇夜を彩るような満開の桜の花が目の前に広がる公園で、横島は静かに夜空を見上げていた
都会の明るい光で星すら見えないほどの無粋な夜空に思わず文句を付けたくもなるが、こればっかりは仕方ない
「サボってるとまたシバかれるわよ」
「サボろうが真面目に働こうが俺がシバかれるのは決まってるんだよ。 ならサボった方がいいだろ」
深夜を越えて朝方に差し掛かりそうな頃、公園で寝転びサボっていた横島に声をかけたのはタマモだった
どうやら横島は花見で来てる訳じゃなくバイトで来てたらしい
「珍しいわね。 あんたが花を見るなんて」
「別に花を見てる訳じゃないよ。 ただサボってるだけだ」
少し離れた場所に座ったタマモは横島の様子を伺うように声をかけるが、その答えはいつもの横島と微妙に違っている
タマモはその変化に気付くが、特に何も言わぬまま二人は静かに夜の桜を見つめていた
「GS辞めるんだって?」
「俺には向かないからな」
ついさっきまで夜通しで騒いでいた花見客も少なくなり、二人の周りは静かな夜の街の息吹に包まれている
綺麗に咲き誇る桜の花を見てるのはずの横島とタマモの周りには、何か冷たい空気が漂う
「これからどうするの?」
「二~三年は世界中を回ってみるつもりだ。 一人旅って感じかな? その後はまだ考えてないよ。 ただGSに戻ることはないと思う」
互いに目も合わせぬ横島とタマモは淡々と会話を続けるが、その距離は座る位置と同じく微妙なものである
横島がGSを辞めると告げた時、動揺するおキヌとシロとは対照的に令子とタマモは冷静だった
その訳は第三者には分からないが、横島の決断をどこか予想していたのかもしれない
「どっかでくだらない女に騙されて終わりなんじゃないの?」
「そうかもな~ まあ、それならそれでいいさ」
ゆっくりとぽつりぽつりと続く会話に、東の空はいつの間にか明るくなってくる
夜の闇から昼の光に変わるその瞬間を、二人はただ見つめてるだけだった
「相変わらずいい加減ね」
「まあな、俺らしいだろ?」
夜から朝に変わる空を見つめたままだった横島は、クスッと笑ったかと思えば起き上がりタマモを見る
「一緒に来るか?」
「あんたと二人旅なんて、これ以上ないほどのギャンブルよね」
「金持ちの王様でも見つかるかもしれんぞ?」
「もう王様は懲り懲りよ。 でも……世界は見てみたいな」
いつの間にか二人の座っていた距離は近付いていた
どっちから近寄ったのかは分からないが、今はその気になれば触れ合えるほどの距離である
「お前を置いていくと日本の女王にでもなってそうだしなー 仕方ないか」
「あんたこそ一人で知らない場所に行く勇気がないだけでしょ? 素直になれないのね」
「どっちがだよ」
桜の木々の隙間から朝日が差し込み始める中、二人は相変わらずの口調と表情で会話を続けていた
そんな会話が途切れた瞬間、朝日に照らされた二人は静かに重なるのだが……
「あの二人、私達の存在完全に忘れてるみたいね」
「まさかタマモちゃんに出し抜かれるなんて……」
「クッ……」
仕事が終わり横島とタマモを探しに来た令子達が見ている事実に、二人は全く気付いてなかった
14/14ページ