その一

『二人のカタチ』



それは麗らかな小春日和の午後だった


「帰る」

相変わらずの無表情で一言告げた彼女は、投げ捨てるように脱いでいた服を着て帰り支度を始める


「飯食っていかないか?」

「いい」

スーパーの袋に無造作に入っていたカップうどんを出して夕食を誘う横島に、彼女は全く迷うそぶりもなく断り帰っていく


(相変わらず何考えてるかわからんな……)

無言のまま帰る彼女を、横島は少し複雑そうな表情で見送っていた

何故彼女がいつも自分の部屋に来て抱かれて帰るのか、横島にはわからない

好きだと言った事も愛してると言った事もない


成り行き……?

気まぐれ……?


何故こんな関係になったのか、いつまで関係が続くのか全くわからない



「一緒に来てくれないか?」

奇跡的に合格した大学進学の為に東京を離れる横島は、最後の日に来た彼女に一言言葉をかける


「………」

いつものように無言のまま帰る彼女を、横島はただ見送る事しか出来なかった


(最後までわからん奴だったな)

短い間だったが自分を受け止めてくれた彼女へ、横島なりの勇気を振り絞って言った一言

しかし、最後まで何も変わらないままだった



送別会も見送りにも彼女は来ない

仲間や同僚と騒ぐ中でも、横島の視線は何故か彼女を探してしまう



新幹線のホーム


最後まで見送りに来てくれた仲間達に別れを告げた横島

新幹線の窓から流れる景色を見つめ、無意識に涙を流していた



「はい、あんたの分」

その時、横島は信じられないモノを見たような表情で固まってしまう


「……なんで」

「食べないなら私が食べるわよ」

混乱する頭で何故彼女がここに居るか尋ねるが、彼女は答えぬままいなり寿司を食べている


「食べるよ」

訳もわからぬまま渡された弁当を食べる横島の弁当は、何故か涙の味しかしなかった



「ありがとう」

新幹線の音に掻き消されそうなほど小さな声で一言呟いた彼女は、そのまま目を閉じて眠ってしまう


「えっ!?」

その言葉が何なのか横島にはわからない

いや、その言葉が本当に彼女の言葉だったのかすら確かではない


しかし……

眠る彼女の左手はしっかりと横島の手を握っていた

そして横島にはそれで十分だった



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