その一

 
 狐の油揚げ屋・改訂版


それは何処にでもある商店街の、ごくごく普通のお店

今時珍しく活気に満ちた商店街の、小さな小さなお店の物語…


『狐の油揚げ屋』


そんな奇妙な看板を掲げた店は、今日も朝からたくさんの客で賑わっている


商品は全て油揚げが中心のものばかり

普通の油揚げや厚揚げから始まり、いなり寿司やきつねうどん用の油揚げなど味付きの品物まで幅広い

まさに油揚げの専門店と言える店である


「いなり寿司弁当二つと、きつね丼二つちょうだい」

「ありがとうございます! 少々お待ち下さい」

時間はお昼時、ちょうど昼食を買いに来たOL達が列を作っていた

子供のような幼さと大人のようなたくましさの両方が表情に現れる青年は、慣れた手つきで弁当を袋に入れて販売していく


「いなり寿司弁当追加出来たわよ」

狭い店の奥から現れたのは、見る者を魅了するほど美しい女性であった

真っ白に透き通る肌に、金色に輝く髪を綺麗に結い上げたその姿に、買い物に来た客達は目を奪われる


「キレイ…」

「ありがとうございます」

思わずつぶやくOLに、女性は笑顔で答えた


「タマモ、きつね丼も追加頼む」

「今作ってる途中よ忠夫」

息もピッタリな二人は、混み合う客を待たせることも無く捌いてゆく


「ふー、ようやく一息つけるな~」

「忠夫お疲れさま」


お昼時が過ぎて客足の途絶えた隙に休憩に入る二人は、少し遅い昼食にいなり寿司を頬張り満足そうな笑みを浮かべる


「今日もいい出来だわ!」

「九尾の作るいなり寿司は伊達じゃないってか?」

いなり寿司を頬張る女性を見て、青年は改めて幸せを噛み締めた


(いろいろあったけど、本当に幸せだな…)

少し懐かしそうに昔を思い出す青年

彼の名は横島忠夫

13年前、世界の危機を救った影の英雄と呼ばれた男


「当然でしょ! 油揚げに関しては誰にも負けないわ」

自信に満ちた笑みを浮かべる女性

彼女の名は横島タマモ

その昔、国を滅ぼす妖怪として恐れられた伝説の金毛白面九尾の妖狐



しかし、この街に二人の過去を知る者は誰も居ない

二人が店を始めてまだ数年だが、すでに商店街の看板と言っても過言ではないほどに人気を集めている

すっかり平和に慣れた二人は、永遠ともいえる寿命を楽しむように、姿を変え土地を変え生きていた


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