その一

「もうちょっと冷ましてからだな~」

横島はリビングから感じる殺気を感じないように現実逃避しつつ、ルシオラに与えるミルクを適温まで冷ましていた


「横島よ、いいのか?」

「そんなこと言われてもな。 あの二人を止めれる訳ないだろ…」

現実に戻そうとする心眼だが、横島は引き攣った表情で言い訳をするばかりである

いつも自分が一番正しいと言い切り、横島の意見など聞かない百合子が相手ではどうしようもない

それに小竜姫の機嫌がどんどん悪化している現状も加わるため、横島は逃げの一手しか頭にないのだ



その頃、リビングの方は更に険しい空気が漂っていた

ベスパとパピリオは、自分達が何故こんな修羅場に巻き込まれなければいけないのか理解に苦しむ

当事者のはずの横島はルシオラのミルクの時間だからと小さくつぶやき、いち早く逃げ出したのだから余計にたまらない


「護衛? 竜神族…?」

百合子は小竜姫の言葉を聞いても、全く事情が見えていなかった


(神様がなんで忠夫を護衛してるのよ!)

一応、落ち着こうとする百合子だが怒りは収まるどころか増している

見知らぬ神だかなんだか知らない者に、母親失格と言われるのは百合子の高いプライドが許さない


「あなたの身勝手な行動が、横島さんの成長を妨げる原因になってます」

遠慮の全く無い小竜姫は、説教するようにキツイ言葉を百合子にぶつけていく


「横島さんの現状を知りたければ自分で調べなさい。 それがわかるまで横島さんには会わせません」

有無を言わさない迫力の小竜姫だが、百合子も負けてはいなく、あからさまに殺気を小竜姫に向けていた


「随分好き勝手に言いますね。 人の家庭の事情を何処まで知ってると言うんです!!」

「全て調べました。 言うことを聞かない息子を無理矢理従えるために、無茶な環境を与えたんですよね? その結果が生んだ現実を、あなたは知らねばなりません」

二人の殺気がぶつかり合い、まるで部屋は戦場のような空気が辺りを支配している


(何があったと言うの! それにあの赤ん坊はいったい…)

そんな中で百合子は、予想以上に事情を知る小竜姫の言葉の意味を考えていた


「横島さんは現在、妙神山の斉天大聖老師の保護下に置かれてます。 これは神魔指導部の決定事項です。 異議のある場合は妙神山の老師に言って下さい」

一歩も引く気配のみせない小竜姫を百合子は苦々しく見つめる


(とりあえず出直すしかないわね)

「わかりました。 今日は帰ります」

ここで引くのはプライドが許さない百合子だったが、あまりにも情報が無い自分では不利だと判断したため無言で帰っていく



その頃横島は、ミルクを飲ませたルシオラを寝かしつけて一緒に昼寝していた

文珠で【結】【界】を作り、百合子と小竜姫の殺気を遮断しての昼寝だった


百合子が帰った後そんな横島とルシオラの姿を見た小竜姫達は、微笑ましさを感じていた

だが、それとは別に先に逃げ出したことを後でパピリオに責められることになるのは仕方ないことだろう


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