その一

その後緊迫した空気のまま百合子はリビングに通されて行き、小竜姫とワルキューレは警戒を解く気配は無い

テーブルを挟んで百合子の正面に横島が座るが、隣に小竜姫が座り百合子の背後の方にはワルキューレが居る

そしてペスパとパピリオは、小竜姫達に言われて横島の後ろに座っていた


横島としては、本物の母親と間違うはずの無い殺気と威圧感だっただけにもう少し楽にして欲しいのだが…

日頃の行いの為かそれとも百合子の非常識な行動の為か、小竜姫達は気を許さない


(一体どうなってるんだい!)

一方百合子は表情には表さないが、内心穏やかで無かった

アシュタロス戦で人類の裏切り者としてテレビで騒がれた件や、勝手に学校を辞めて引っ越した息子を制裁すべく訪れたのに、逆に警戒されるとはさすがに思わなかったようだ


(それにこの二人何者…)

小竜姫とワルキューレの先ほどの行動を思い出し、百合子は二人が人間で無いのを悟る

横島を睨みつけた瞬間、目の前に突然小竜姫が現れワルキューレは同時に銃を突き付けたのだ

明らかに人間に出来る動きではない

「さて、ご用件はなんでしょうか?」

無言で重苦しい空気の中、小竜姫は百合子に用件を尋ねる

本来は横島が言うべきなのだろうが、横島はこの空気に耐え切れずにルシオラをあやして現実逃避しているのだ


「母親が息子に会いに来たらいけないかしら?」

先程の件もあり、無表情で語る百合子だが言葉には怒りが込められてるのがまるわかりであった


(なんなんだ、この空気は…)

(勝手に学校を辞めたので怒ってるのではないのか?)

(いや、しかし小竜姫様まで怒ってるし…)

頭の中で心眼と会話する横島

彼が逃げずにここに居ることが出来るのは、何も知らないルシオラが笑顔で横島の腕の中に居るおかげであった

ルシオラが居なければ、さっさと逃げ出していただろう


「今までずっと放置していながら、来た途端殺気で睨みつけるとはそれでも親ですか! そもそもあなたの無責任な行動が横島さんをどれだけ苦しめたと思ってるんですか!!」

小竜姫は怒りをあらわに百合子に怒鳴りつける

何故小竜姫がこれほど百合子を怒ってるかと言えば、それはここに住む前にジークとヒャクメが調べて来た横島の過去や生活環境が原因だった


小竜姫や老師達が横島達の今後を考える上で、横島本人の詳しい情報を本人に内緒で集めていたのだ


その結果、百合子の非常識な教育も明らかになっていた

その情報を見た小竜姫達は、百合子に相談も連絡もすることなく横島の今後を決めている

きちんとした話し合いや意思疎通も出来ない親には、相談する必要無しと判断していたのだ


「あなた誰なんですか! それに何故他人のあなたにそこまで言われなくてはならないんですか!!」

百合子も我慢の限界に来たのか小竜姫を睨みつけて怒鳴る


「私は竜神族の小竜姫。 現在横島さんの護衛をしてます。 失礼ですがあなたのことも以前調べました。 あなたは母親失格です」

睨み合う百合子と小竜姫


一方、すっかり話のかやの外に置かれた横島は台所でルシオラのミルクを作っていた


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