その一

横島達が新しい家に引っ越してから一週間

荷物の整理に足りない小物の買い出しなど、数日は慌ただしかった横島達だが、ようやく落ち着いていた


家自体はアシュタロス一派がアジトにする前からあったものであり、元々別荘だったらしくあちこち傷んでいたのだが住むのに支障がある部分以外は直してない

あまり大掛かりな改築を横島が嫌ったためである

思い出のある家なので、自分で直したいと言い出していたのだ


カン、カン、カン…


トンカチの音が響く中パピリオはルシオラを抱き抱え、横島が家を直すのを楽しそうに見ていた


「横島って器用でちゅね。 ルシオラちゃんみたいでちゅ…」

腐りかかった外壁を外して、次々と新しい外壁に交換していく横島をパピリオは感心したように見ている


「手先は昔っから器用なんだよ。 それに自分で出来ることは自分でしなきゃな… ただでさえ小竜姫様達に世話になっているのに」

苦笑いを浮かべる横島やルシオラ達姉妹は、今は小竜姫達に養ってもらっているのだ

これは老師に言われたことであり、当分は仕事をするより修業をするようにきつく言い渡されていた


理由としては、横島が予想以上に素人だったことが関係している

ただでさえ珍しい半神半魔の力なのに、力のコントロールどころか使い方さえ満足に知らないのでは危なっかし過ぎると言われていた

その結果、横島達の生活費は神魔界から出されているのだ



「う~ あぅ~」

そんな時、横島を見ていたルシオラは楽しそうに小さな両手をパタパタさせていた


「横島~ ルシオラちゃんが呼んでるでちゅ!」

一週間でだいぶルシオラの言いたいことを理解して来たパピリオは、腕をパタパタ伸ばすルシオラを見て気持ちを悟ったようだ


「おう~ ルシオラ寂しくなったか?」

作業の手を止めて横島はルシオラを抱き上げる

ベスパやパピリオや小竜姫達にも懐いてはいるが、やはり横島が一番なようでたまに構ってやらないと泣き出してしまうのだ


「だ~ だ~」

横島に抱き上げられてご機嫌なルシオラは、元気に嬉しそうな声をあげる


「ちょっと休憩がてら散歩に行くか」

同じ場所で作業するのを見ていたルシオラが飽きて来たのかと思った横島は、パピリオと三人で近くを散歩に行く



その頃、ベスパは小竜姫に料理を習っていた

本人はあまり乗り気ではないのだが、横島やパピリオに料理をさせる訳にもいかないため

結局ベスパが覚えることになっていた


今は基本的に小竜姫かワルキューレのどちらかが居るので普段は食事に困らないのだが、これから生きていく上で必要だと言われて渋々教わっている


「よくそんなに綺麗に剥けるね…」

器用に包丁で野菜の皮を剥く小竜姫に、ベスパは感心してしまう


「慣れれば簡単ですよ。 まあ、私の場合は一人暮らしが長かったですからね。 自分で料理するしか無かったんですが…」

包丁の持ち方から丁寧に教える小竜姫は、昔を思い出すと少し苦笑いを浮かべる

まさか魔族に料理を教える日が来るとは夢にも思わなかったようだ


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