その一

それから買い物を終えた小竜姫とヒャクメが帰って来て、慌ただしく掃除や荷物の整理などをしていく


引っ越し自体は横島のアパートにある荷物を小竜姫の瞬間移動で運んだのだが

元々荷物が少ないのに加え、男の必需品などを小竜姫とヒャクメにより強制的に処分されたので荷物は驚くほど少なかった


当初横島は男の必需品を処分されるのには反対したが、これからルシオラを育てる上で教育上良くないと言う小竜姫の言葉に、渋々ながら納得するしか無い状況に追い込まれてしまう

ちなみに小竜姫とヒャクメは、必需品の種類や内容をチラチラ見ていろいろ考え混んでいたが、当然横島は気が付いて無い



そんな風にいろいろドタバタはあったが、横島達は慌ただしく生活の準備をする

そして小竜姫達が買い物で買った大型の家具や電化製品が次々に配達されて来て、日が暮れる頃にはなんとか生活出来る形になっていた


「なんとか一通り生活出来る物が揃いましたね」

「まだ横島さんやベスパさん達の洋服や小物類が足りないのねー」

「それは明日ですね。 ベスパさんとパピリオさんは人間界の服は無くて仕方ないですが、横島さんがあんな生活をしていたとは…」


ようやく一息ついた小竜姫とヒャクメは部屋を見回り、足りない物を確認しながら会話しているのだが…

話が横島になると複雑な表情をする


「よくあの生活でルシオラさんを育てると言えたのねー」

「まさか食べ物に困った生活をしているとは…」


横島のアパートを思い出してため息をつく二人

アパートにあって実際使えそうな物は、布団と服が数種類くらいであった

電化製品などは故障がちの物や、一人暮らし用の小さな製品ばかりで使える物は無いし、服などは着古した服が多く数も少ない

小竜姫とヒャクメは、そんな横島の今後に不安を隠しきれないようである



一方その頃横島は、パピリオとルシオラを連れて家の裏にある庭を歩いていた


「広い庭だな~ 落ち着いたら畑でも作ってみるか? こんな広い庭を遊ばせておくのもったいないしな」

雑草が伸び放題の庭を歩き、横島はルシオラに景色を見せながら呟く

その周りではパピリオが眷属の蝶達を庭に放していた


「横島~! お花がたくさん欲しいでちゅ! 蝶達と蜂達の為にもお花が一番でちゅよ!」

「そうか… なら花壇を作らなきゃな~ 俺は花壇とか作ったことないから本でも買って来ないとな~」

貧乏が体に染み付いている横島は食べ物の畑を作ろうかと考えていたが、パピリオの話を聞いて花壇もいいと思う


「あっ… あぅ~」

そして、パピリオの眷属の蝶と戯れるルシオラを、横島とパピリオは幸せそうに見つめる

ちょうど遠くに見える山々に夕日が隠れようとする頃、楽しそうなルシオラに横島の心は満たされていく


「ルシオラ… 時間はたっぷりある。 たくさんいろいろな経験をさせてやるからな…」



そして、幸せそうな横島達を家の中からベスパが見つめていた

彼女もまたその様子に幸せそうである


「アシュ様… 私達姉妹はこの世界を生きて行きます」

ベスパの小さな呟きは誰に聞こえることは無かった


かつてアシュタロスは自ら創造したメフィストが、己と別にの生き方をしたのを本当に喜んでいた

そして、今度また創造主であるアシュタロスと別の道を生きる自分達姉妹をアシュタロスは喜んでくれるだろう


ベスパはそんな気がしていた



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